エピソードⅦ

#33 怪獣撃滅作戦

 広い海に面するように、一つの街が存在する。


 ここではよく海水浴が開かれており、さらに温泉も存在するので観光客が殺到する。しかしその観光客が見えない上に、そもそも街に電気があまり付けられていない。

 まるでゴーストタウンになったような静けさだった。しかしある場所から、突如として音が聞こえてくる。


「早くしろ!! 金になる物をしらみつぶしで探せ!!」


 金髪をした青年がいた。目の前には彼が破ったのだろうか、大きな穴が開けられたシャッターがある。


 それは小さなデパートだった。青年が中へと三~四人の仲間を誘導させながら、辺りを見回す。どうやら金目の物を探しているので、周りを見張っているのだろう。

 それで誰もいないと分かった途端、デパートの窓から中を覗いた。仲間が我が物顔で走り回っているのが見える。


「怪獣出現で人がいなくなるなんてな。俺達みたいな奴が火事場泥棒するのが目に見えているのに、馬鹿だな」

「それもそうだな。だから早い事、豚箱に入れるべきだ」

「!?」


 背後から女性の声がした。驚きながら振り返ると、不意打ちとばかりに頬を殴られた。

 鈍い音共に怯む青年。さらに足裏を踏み付けられて体勢を崩した後、閃光の速さで地面に押さえ付けられてしまう。


「な、何だお前は!?」

「何だかんだと聞かれてたら、答えてあげるが世の情け。この通り正義の味方だ」


 叫ぶ男性に、冷静に答える私服姿の藍。

 彼女はこういった事態を押さえ付ける為、紗香達と別行動をしていたのだ。行ってみればこの様だから、表情に呆れが出ている。


 さらに青年の仲間達がデパートから帰ってきた。手には金が入ったビニール袋が握られているが、リーダーの様子を見て立ち止まってしまう。


「動くな。ウキウキしている所悪いが、全員殴り倒して連行させる」

「……はん……それが出来るなら……やってみろ!!」


 突如として押さえた青年の姿が変わっていった。藍を突き飛ばした後、変わり果てた姿で立ち上がる。


 ライオン型の怪人だった。金髪が鬣になっており、手には鋭い爪が生えている。しかも仲間達も変化し、同じようなライオン怪人(ただ鬣や体色などに差異がある)へとなっていった。


「やはりヴィランだったか……となれば、お仕置きをするまで…………」


 最後まで言おうとした藍の姿が、一瞬にして怪人の視界から消えた。

 辺りを捜す怪人達。すると直後、ある一人の背後に藍が立つ。


「だっ!!」


 いつの間にか魔闘強女アルティメアに変身。指ぬきグローブを付けた拳で、怪人に殴り付けてノックアウト。さらにもう一人へと迫り、顔面に蹴りを入れる。

 目に留まらぬ速さで次々となぎ倒す。そして最後の一人になったリーダーの攻撃を避け、その拳を突き出した。


「グッ!? グオオアア!!」


 腹にめり込まれて吹っ飛ぶ怪人。地面に転がる頃には、既に気絶をしていた。

 これで荒らしていた連中は全滅――一息を吐く藍。すると彼女の元に、二人の少女が現れたのだ。


「観月さん、大丈夫ですか!?」

「ああ、お前達か。問題ない、この通りに気絶させてもらったよ」


 来たのは七葉達の仲間で、玲央とゲームしていた少女達だ。どちらも変身していないのだがそれもそのはず、先に藍が現場に急行したので変身し損ねたらしい。


「こんな簡単に……やっぱり強いんですね……」

「私、惚れてしまいそうです……」

「やめろ、そんな趣味はない。それよりもそんな事を言っている場合じゃないぞ」


 藍がノンケ発言を言いつつ、別方向を見ている。

 二人も見ると、地面が突如として盛り上がったのだ。それが風船のように破裂して、中から怪物が現れる。


「ハサミムシ……!?」


 姿はハサミムシその物だった。だが大きさが人間大で、ハサミのある尻尾が非常に長い。

 さらに一体だけではなく、次々と数十体が現れてくる。


「モンスターなんて…… 何で今頃……」

「さぁ……しかし恐らくは、怪獣の出現が影響しているのかもしれない。動物はその辺に敏感だと聞いた事があるからな」


 地震が来る前に犬が吠えたり、ナマズが反応したりとそういった事と一緒かもしれない。

 だがそんな推測はどうでもいい事。藍は拳を構え、ハサミムシモンスターへと立ち向かう。さらに少女達も前に出るのだった。


「観月さんだけにやらせるわけには行きません!!」

「行きますよ、お姉様!!」

「おいそこ、お姉様はやめろお姉様は」


 割と嫌がっている藍だったが、二人をそれをシカト。魔法少女へと変身する。

 その最中に向かってくるハサミムシモンスター。藍は呆れつつも、殲滅の為に突進していった。




 ===




 静かな波が立つ海岸。そこには私服姿の紗香ら魔法少女が集まっている。


 数人はざっと七人。他は街の警備に当たっており、避難に応じて悪事をするヴィランやモンスターの撃破をしている。この避難の原因である元凶を倒すのが、紗香達の役目だ。


『乙宗ちゃん、聞こえる? アグレッサーの反応が徐々に近づいているわ。もうすぐでそちらに着くと思う』

「了解……」


 紗香の耳にあらかじめ付けられた無線機から、手塚の声が聞こえてくる。彼は本部で、怪獣アグレッサーの行動を観察しているのだ。


 本部直属の魔法少女の攻撃を掻い潜り、こちらへと向かってくるアグレッサー。それ程に強大な存在だという事だが、紗香は全く恐れていない。


(玲央ちゃんがマレキウムになれないこの状況……。だからと言って彼女に頼る事なんてしない。

 私は魔光超女エレメンター……例えどんな敵だろうと倒すだけ……そして、何としても平和を守ってみせる……)


 彼女にも使命感がある。街や人々の平和を守る為、彼女は立ち向かう。

 例え玲央が来れなかったとしても……。


「! 見えてきました!!」


 目の前へと指差した七葉。その先にあるのは海……そして、海面から見える背ビレ。

 ついに姿を現したのだ。ただちに紗香達が変身をする。


「皆、行くよ! 変身!!」

「はい! 変身です!!」


 紗香や夏樹や空、そして最初に喧嘩していた二人の少女などが変身。

 エレメンター、ラダーリウス、専用ロボットのメリュジーナ。そして七葉の身体が光り輝いて、変身完了。


 茶色のツインテールがピンク色に、服がピンクを基調とした可愛らしい物になり、手にはハートをあしらったステッキ。まさにアニメによく出る、オーソドックスな魔法少女その物だった。


『おお、可愛いじゃん星野ちゃん』

「いやぁ、それほどでも~」

「そう言っている場合じゃないよ。来る!」


 夏樹が褒めている所を、紗香が釘を刺す。

 目の前の背ビレが徐々に盛り上がる。やがて海が滴り落ちながら、その姿を彼女達へと現した。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!」


 ヒレが付いた爬虫類のような頭部に、赤く光る目。身体中にびっしり生えた青黒い鱗。太い前脚に対して、まるでタコのような触手が生えた下半身。


 言ってみれば、魚介類と爬虫類が融合したような姿だった。これこそモンスター以上の存在、怪獣アグレッサーの正体。


「何としてでも市街地に入れてはいけない!! 皆、行くよ!!」


 紗香の号令。やがて魔法少女達がアグレッサーへと立ち向かう。

 戦いの鐘は、常に鳴っていたのだった。

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