エピソードⅧ
#37 修羅場の火蓋が切る!
「……っ……」
ある建物の屋上が、無数の亀裂に覆われていた。
その中心に、純白の鎧を身に纏った少女が倒れている。マレキウムこと玲央であるが、そんな彼女が今こうして
何故こうなったのか――それは目の前の立っている人物が原因である。その人物は禍々しい赤い瞳で睨み付け、玲央へとにじり寄る。
「……こいつ、何なんだ……?」
さすがの玲央も、こんな事しか言えなかった。
それでも人物は何も答えない。右手を掲げたかと思えば、何かを展開する。
本来の手とは別の、巨大な鉤爪だった……。
===
「やっぱ魔法少女のツイートがあるんだ。うお、この画像パンツが見えている」
その日、玲央は自室にいながらパソコンと向き合っていた。
目的はネットサーフィンただそれだけ。今、彼女は某大手サイトを開き、赤の他人の呟きを見ていた。
なおこれには紗香が参加しており、もう既にフォローし合っている。ただ玲央に比べて呟きが少ない辺りが、いかにも彼女らしい。
(あっ、私への呟き……。お尻がキュート? お尻ハァハァ? 他にも言う事があるような……)
ちょうどマレキウムの画像があったので見てみるも、何とお尻に関する呟きしかなかったのである。
その辺に関しては、玲央はあまり気にしていなかった。男がエロを求めているのはラノベ見れば分かるし、特に嫌悪感は感じてはいないのである。
――ピーンポーン
「ん? 誰だろう?」
誰かがやって来たのか、呼び鈴が鳴り出した。面倒くさそうながら玄関に向かう玲央。
この時、覗き穴から誰がいるのか確認するのを忘れていた。そのままドアを開けると、
「ヤッホー、玲央ちゃん♪」
「……何だ、また篠原さんか……」
立っていたのは琴音その人であった。
ここ最近、家に遊びに来るので少々面倒だと思っている。そんな玲央の考えに気付いているのかいないのか、妙にニコニコ顔をする琴音。
「今日も遊びに来ちゃった。彩光君はいる?」
「今は買い物中ですよ。ついさっき行きましたから時間掛かると思いますし」
「そうか……じゃあ待っている事にするね」
「あっ、ちょっ……」
玲央が止めようとしたが、そのままずかずか入ってしまった。
ただ悪い人ではないので、玲央は「まぁいいか」と軽く済ませる事にする。そのまま自分の部屋に戻ろうとしたが……
「何で付いて行くんですか? 居間で待って下さいよ」
「まぁ、固い事言わないの、玲央ちゃんの部屋にも興味あったし。おお、これは凄いねぇ」
部屋にあるオタクグッズに、琴音が関心をするような表情をする。
玲央は諦めてパソコンへと向かう事にした。そのままサイトの閲覧をしようとした時、琴音が彼女の両肩に手を置く。
「あっ、呟き。ちょうどよかった、私に関する奴ある?」
「確かありますよ。ええと……あった。『何かエロい格好(*´Д`)ハァハァ』『あの人をじっくり視姦したい』『おっぱいがいっぱい』とか。結構人気あるんですね」
「まぁ、怪人とかモンスターをいっぱい倒しているからね。セクハラ発言はあんまり嬉しくないけど」
あの城南大学の事件以来、改心したヴェパールは次々とヴィランを倒しているらしい。この事から彼女自身ヴィランであるにも関わらず、管理課には放置されている。
話の後に呟きを見る玲央だったが、いつまで経っても琴音が離れようとしない。さすがにこれには、彼女ですら苦く思う。
「あの……とりあえずベッドに座って下さい。後でジュースを用意しますし……」
「……あのさ……玲央ちゃん……」
急に声音がしおらしくなっていた。微妙な変化に、玲央が眉をひそめてしまう。
それで琴音へと振り返ると、彼女が玲央をじっと見ていた。それはもう穴が開く位にである。
「私が彩光君を彼氏にしたい……それだけは知っているよね……?」
「知らない訳がないでしょうが。そうじゃなかったら、家にわざわざ来ないでしょうし」
「だろうね……。でもね、一つだけ隠している事があるの」
「何です、すぐに言って下さいよ」
「……私、
「あっそう………………はいっ?」
思わず玲央が二度見をしてしまう。
一方で、琴音の両腕が玲央の首を回していく。さらに彼女の胸が押し付けられ、それはもう柔らかくもいい香りが……。
「ずっと見ていたんだけど、あなたって兄と同じ位魅力的だと思うのよ。さらさらとした髪とか、ジト目だけど大きな瞳とか、時折見せる可愛い表情とか……。今ちょうど彩光君がいない事だし、ちょっといい事を……」
「いやいやいやいやいや、ちょっと待て待て待て待て待て……。私そんな趣味ありませんので」
「最初は皆そう言うけどね、一旦味わうと病みつきになるのよ。ささっ、ベッドに……」
「ちょっ、あんた!? 変身しますよ!? 吹っ飛ばしますよ!!」
抵抗する玲央と襲いかかろうとする琴音。だが琴音の方が力が強いので、このままでは貞操が奪われてしまう。
玲央が本気でマレキウムになろうとしたが、そこで彼女も琴音も動きを止める。また呼び鈴の音がしてきたのだ。
「また……今度は誰だろう?」
「ああん、玲央ちゃん待ちなさいよぉ」
「暑いので離れて下さい」
抱いてくる琴音をそのまま引きずりながら玄関に向かう。
そして扉を開けると、そこには玲央にとって意外な人物が立っていた。
「あれっ? もしかして……」
「はい、お久しぶりです彩光先生!! 勝手ながら来ちゃいました!!」
何といたのは星野七葉だったのだ。彼女が頭を下げるとツインテールがピョコンと動く。
いきなりの登場に、玲央と琴音が呆然とする。その一方で、元気よく顔を上げる七葉。
「今回はいきなりですいません! 実は頼みがあっ……」
「……!」
この時、七葉と琴音が目と目を合わせる。
たったそれだけなのだが、何故か一瞬火花が散ったような感じをしたのである。まるで肉食獣同士が鉢合わせしたような雰囲気だ。
「篠原さん、重いんですけど……」
ただ、玲央はその辺に気付いていなかったのだが。
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