#2 オタクは最高。異論は認める

「どうもっす」

「あ、ありがとうござまいました……」


 彩光玲央という少女に、店員から本がたくさん入ったビニール袋が渡された。その後、彼女がきょどる店員に見送られながら、本屋から後にする。


 外に出ると、破壊された地面と未だ気絶しているトカゲ怪人が見えてきた。妙に異様な光景だが、彼女は特に気にしていないかのようにその場から走っていく。


「ヘヘヘ……」


 しかもヤケに嬉しそうな顔をしながら……。




===




 あれから数分が経過した。


「これまた派手にやらかしたわね……」


 トカゲ怪人が出現した場所に、人だかりとパトカーが集まっていた。

 野次馬、事情聴取をする警察官、そしてトカゲ怪人を担架で運ぶ白衣の男性達。その担架は白いバンへと乗せられ、すぐに現場から走り去っていく。


 なおその中に、妙に若い男性が一人いた。ねじれた髪が特徴的で、耳にはピアス。白衣を着ているが、その顔立ちからあまり似合っていない。

 しかも口調が女性的。つまり彼はオネエなのだ。


「事情聴取によりますと、やはり例のパワードスーツ魔法少女が確認されているそうです」


 部下だろう男性が近寄った。集めた情報を伝えると、オネエの男性が口角を上げる。


「やはりね。となるとやはりここにいる可能性があるって事か……」

「ええ間違いなく。ただ例の通り退治した後はすぐに去っていくようなのです。従ってコンタクトを取るのは……」

「こちらから仕掛けるしかない……と」


 部下の後に続く男性。途端に、彼の目がある方向へと向く。

 本屋の前にいる女性店員と警察官であった。女性店員から「騒ぎが終わったら女の子が……」と微かだが聞こえてくる。

 騒ぎが終わった後。女の子。それはもう言うまでもないだろう。


「今まで観察していたけど、そろそろ潮時なのかもね。

 楽しみだわ……『マレキウム』……」


 まるで待ち望んでいるような、その台詞。

 何を企んでいるのか、マレキウムという存在をどうするのか。それは彼しか知らない……。




 ===



 ――翌日。


 ある街には一つの学校があった。その名も真谷しんたに中学校。昭和から存在する由緒正しき場所である。


 今は夕方辺りな為、授業はもう既に終了。校門から大勢生徒が出てきて、家に帰るなり遊びに行こうとするなりしている。

 ただその中で鞄を背負いながら、忙しそうに走っている女子生徒がいた。


「あっ、玲央ちゃん! 今からカラオケに行かない!?」


 もう一人の女子生徒が、走っていた玲央を引き留めた。

 すぐに振り返る彼女だったが、残念そうに首を振る。


「ごめん、今日は大事な用事があるから。また今度」

「そうか……じゃあ行ってらっしゃい!!」

 

 女子へと頷いた玲央が、再び全力疾走で校門を出る。


 それから長い道を走り、ようやく目的地へと着いた。それは地元のデパートで、中に入ると大勢の客と多数の店で賑やかさを見せている。

 その中を潜り抜けて、食品棚へと到着。それも駄菓子コーナーで、小学生がお菓子を買おうとわいわい集まっている。


「あったあった」


 その中で発見したのが、フィギュアが入った箱。


 玲央が好きなSFロボットアニメの機体が元である。原作はライトノベル――テロが頻発した近未来で、テロリストと日夜戦う軍隊の物語といったもので、アニメ化もしている。

 彼女はこの作品のファンであり、プラモもしょっちゅう買っている。完成の暁には写真を撮ったりツイートで投稿したりと自慢もしていたりしていた。


(今あるのは五個……誰かが何個か持っていったと思うけど、まぁいいか。それにこれで十分だし……)


 本人が気付いていないが、怪しいと言わんばかりのニヤケ顔である。それはもう不審者と思う程に。

 彼女が箱をほいほいカゴに入れている中、周りの子供達が引いていた。中には指差しする者も。


「なぁ……あの人怖くない?」

「うん……おまわりさん呼んだ方がいいかも……」


 しかしその声は玲央自身には届かない。フィギュアの箱を眺め、ニヤニヤをする始末である。


 彼女はこういった趣味を、人生の中で最高の喜びとして見出している。アニメを見る、漫画やライトノベルを読む、ゲームをする……まさにこれらは彼女にとって生活の一部だった。

 目的が果たせられたので、早速でレジで箱を購入。すぐに家に帰ろうとして……。


「グオオオオオオオオオオオオンン!!」

「!?」


 その時、何らかの声が聞こえてきた。

 明らかに人の声ではない。しかも悲鳴も聞こえてくるし、逃げていく人々が奥からチラリと見えてくる。どう見ても普通ではない。


「……まさかね……」


 玲央が、箱の袋を持ったまま走っていった。

 咆哮が聞こえたのは、デパート内の吹き抜けからようである。そこに着くと、思いも寄らない光景があったのだ。


「オオオオオオン!!!」


 何と、デパートの床からぬたくった怪物が現れているのだ。

 簡単に述べるならば、巨大ミミズ……あるいはワームか。粘液を帯びた灰色の体表に、太く長い身体。先端には人を呑む込める程の巨大な口があり、そこから咆哮を発している。


 ワームが床から顔を出しながら、逃げ惑う人々を狙っていた。その中で目を付けたのが、黒髪ロングが特徴的な若い女性。


「ヒッ!? うごう!?」


 何と女性を咥え、丸呑みにしてしまったのだ。


 ワームの身体の中で、蠢く女性の輪郭が見える。どこかエロいのだが、だからと言って見ている訳には行かない。

 すぐに右腕の袖をくるんでいく玲央。その腕には機械的な金属の腕輪がはめられており、それを前に掲げた。


「……魔装……」


 直後、腕輪から光が発した。さらに玲央の周りが、基盤のような膜に覆われる。

 基盤がパワードスーツとなり、玲央の身体へと装着されていく。頭部、両肩、両腕、胴体……そして両足を最後に、右手から出現する杖状の武器。


 緑色の目が輝き、遂に姿を現すパワードスーツの魔法少女。彼女が腰アーマーから青いエネルギーを吹かせジャンプ――ワームへと飛び蹴りをかました。


「ギイイイイイイイ!!」


 ワームからの悲鳴。その拍子に、口から唾液と共に女性が飛び出る。

 床に落下する前に、玲央は彼女へと向かって抱きかかえた。女性は気絶しているのだが、特に大事には至ってない。


 ただ身体中の粘液や異臭がパワードスーツ越しでも分かってしまう。そして何よりエロい、エロいのである。


「えーと……こういう場合は安全な場所に避難させないっと……」


 女性をどうにしなければと考える玲央。しかし彼女を妨害するように、ワームが迫ってきている。

 玲央は攻撃はせず、回避行動へと移った。横方向へと飛び移ると、その床へと掘り進むワーム。


 しかし別の床から再び出てきた。その口が玲央へと向かい……


「ガアアアアア!!」


 直後、体表に何かが直撃した。ワームがそれを喰らい、長い身体を床に叩き付ける。

 ワームを攻撃したのは火球であった。どうやら玲央の背後から来たらしく、すぐに振り返ってみる。


「マレキウム、援護するよ!!」


 そこにいたのは自分より年上の少女。

 そして目に付くのは、透明な宝石がはめられた銀色のガントレットだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る