第38話
巻き上がる風の中、カンザキは
暴力装置を抱えた戦闘用である。斜めに突き出した30mmチェーンガンが
「食い散らせ!」
ベアトリスの
しかし、その手が届くことは無く、まず一番近くにいた、屋上出入り口を押さえていた腐食兵が、ヘリからの
上半身は勢いをつけて地面に叩きつけられ、血と
「ちょっとメイ!当たる!艦長に当たる!艦長ハンバーグになっちゃう!」
「当てないわよ、絶対に!」
ヘリの中で
普段は顔の右半分を
これが
カンザキはその場を動かない。彼もまたメイの腕前を信頼しており、当たらないと確信した者の姿であった。むしろ、下手に動けばメイの射撃の邪魔になると考えてのことである。
残った二体の腐食兵がカンザキに襲い掛かる。と、同時にベアトリスは研究機材から素早くメモリーチップを抜き出し、屋上の端、手すりに向けて走り出した。
メイは一瞬、どちらを撃つべきか迷ったが、すぐにカンザキの身の安全が第一と判断し機銃を腐食兵に向けて引き金をひいた。
その
一方のメイはそのような
腐食兵を始末し、すぐにベアトリスを目で追うが、すでに手すりへたどり着き、それを
自殺か、という考えはすぐに捨てた。そんなわけがない。腐食兵をカンザキにけしかけたのは逃げるための時間稼ぎだろう。ベアトリスが飛び降りた先に何らかの脱出ルートが用意されていると考えるべきだ。
ベアトリスに数秒遅れて、グラサッハもまた別方向に走り出し、飛び降りた。
追撃するべきかと迷ったが、深追いして罠にかけられでもすればたまったものではない。屋上から飛び降りてどういった手段で脱出するのか、それすらわかっていないのだ。
カンザキはベアトリスが残した機材を調べていたが、メイとレイラの姿を見ると、黙って首を振った。データも手掛かりも、何も残っていない。
「
「爆発しなかっただけまだマシさ。」
「…そうね、爆破したほうが早いような気もするけど。なんでかしら?」
「
「何?」
視線を宙に置いて、カンザキはベアトリスの容姿を思い出そうとした。
「
そう言って、肩をすくめて苦笑いして見せた。データを一切残さずスマートに去ることが技術者としての美学だということだろう。
人の命を
「いずれにせよ、あとは大佐に任せるしかないか…。」
カンザキは街を見下ろしながらぽつりと呟いた。
輸送戦艦スペース・デブリが誇る人間兵器、ヴァージル。彼もまたカンザキの召集を受けてこの雑居ビルに到着しているころだ。あの男に狙われて逃れえる者など存在しない、はずだ。
ヴァージルの能力については誰よりも信頼している。だが、今日に限ってなぜか断言することができずにいた。
一抹の不安がこびりついて離れない。
もしもヴァージルの追撃を退けることができたなら、奴らは本物の化け物だ。
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