第37話
反政府軍、技術仕官ベアトリスは通信が切れ、砂嵐の流れるモニターを忌々し気に眺めていた。
彼女が不機嫌なのは化け物の操り人形、
では何が問題かというと、
あろうことか、カンザキが腐食兵にとどめを
「グラサッハ、うるさい。」
ベアトリスは短い言葉でたしなめた。雑居ビルの屋上、
しかし、刺した釘はあっさりと抜けたようで、グラサッハは興奮冷めやらぬ様子であった。
「機銃を
もう、何を言っても無駄だと
「俺の胸は今、激しく高鳴っている。そう、まさに恋する乙女のように。」
「
グラサッハは
「
死にゆく様はさぞかし美しいことだろう。最高の
一人で納得するグラサッハを尻目に、ベアトリスはモニターをビルの内部、及びその周辺の監視カメラに切り替えた。
あの高速道路から全速力で来たならば、そろそろ到着するはずだ。
経営難によりオーナーが夜逃げしてデスクや資料は残ったままだが人のいない雑居ビルを、書類の改ざんにより数日だけベアトリスの管理下に置いたものである。
電子モニターをいくつも浮かび上がらせ、監視カメラの映像を次々と切り替えていると、やがてその男、カンザキは現れた。深緑色のコートをたなびかせ、一個の弾丸のごとくまっすぐに向かっている。
このビルには今、屋上にベアトリスとグラサッハがいるのみで他に人はいないが、電源は生きている。当然、自動ドアも
強化ガラスの砕ける音、続いてバイクのエンジン音が無人のホールに響き渡った。飛び散ったガラス片をものともせず、うっすらと
その様子を見ていたグラサッハはモニターを指さして大口を開けて笑い出し、ベアトリスは眉をひそめている。
「あの田舎者、自動ドアの使い方も知らないわけ?」
一応、カンザキにも言い分というものはある。彼はグラサッハたちの戦力がどれほどのものか知りようがないのである。
ひょっとすると、館内に入った
もっとも、それはあくまで理由の一つであり、やはり
非常用エレベータにバイクを滑り込ませ、そのまま屋上へと向かう。
一瞬、ここで毒ガスでもまき
グラサッハがわざわざカンザキをここへ呼び出した理由は遊ぶためだろう。できれば直接対面し、自らの手で殺したいと考えているはずだ。
あの男の趣味の悪さについては、確信に近い考えを抱いていた。
途中で止まることも真っ逆さまに落ちることも無く、エレベータは無事に最上階へとたどり着いた。
屋上へ出るためにはさらに階段を上らねばならない。多少の振動は
愛用のバイクをエレベータ前に置き、今さら盗む奴などいないだろうがと苦笑いしながら、キーを外してポケットに突っ込んだ。
監視カメラのようなものは見当たらないが、四方八方から見張られているような気配を感じる。考えすぎて
考えながら登っていると、やがて屋上のドアへとたどり着く。
ドアノブを握り、軽くゆすってみた。鍵はかかっていないようだ。
銃を構えたままドアを激しく蹴り開けると、凶悪なまでに明るい真昼の日差しが飛び込んできた。
だが、カンザキの目はしっかりと見開かれている。その視線と銃口の先に、グラサッハの姿がある。
決して目を
グラサッハの
ぱん、ぱんと大きな乾いた音がした。見ると、グラサッハがにやにやと笑いながら
「いやあ、よく来てくれたカンザキ。会いたかったぜ。」
「また街を爆破でもされたらかなわんのでな。」
カンザキの言葉を、グラサッハはフンと鼻を鳴らして笑った。
「遅い遅い。今さら正義の味方ごっこを始めてもなぁ…。」
二発の銃声がグラサッハの言葉を
狙いはまっすぐ頭部に向けた。心は怒りに燃えていても、その手は冷静そのものでありいささかのブレも無い。しかし、弾丸がグラサッハに届くことは無かった。
どこからか影が飛び出し、二人の間に割って入ったのである。鉛玉をその身で受けてもうめき声一つ漏らさない。
影が、腐った顔を振り向けた。
先ほどの警備兵のようなカモフラージュをするつもりもないようで、全身腐ったところを見せた裸のゾンビである。
どのような
もう一体の腐食兵が
カンザキは三方向から
再度、グラサッハが得意げな顔をして手を叩いた。
「お前はこれから、生きたままこの三体に
語りながら、グラサッハは
カンザキは腕時計をちらと見やって、口の
「…好都合だ。」
「何だと?」
ベアトリスが何かに気づいたようで椅子から腰を浮かせ数歩、後ずさった。その顔は
「好都合だと言ったのだ!馬鹿をまとめて始末できれば面倒がない!」
カンザキが吠えると同時に、その背後からせり上がるように一機のヘリが姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます