第47話
「
「
「ああ嫌だ嫌だ。それこそさっさと手を切りたいもんだな。お前さんはついでに首まで斬っていたけど」
「そのほうが
違げぇねえ、と呟き、カンザキは
「大佐は艦橋部を押さえてくれ。私は周辺の調査をしてくる」
「まだ何が起こるかわからん。俺が調査に行った方がよくはないか?……いや、俺では何か見つけても判断つかないか」
「何かあったら大声出して逃げ出すよ。それと、艦橋部には後から団体さんが流れ込んでくるだろうし、チャンバラできる奴をそっちに回したいわけよ」
「
軽く手を振ってその場で別れ、ヴァージルは艦橋部へと向かった。走っているわけでもないのに、その速さは常人の全力疾走を超えている。
剣を抜き払い、艦橋部のドアを蹴破り侵入する。抵抗する者はいない。それどころか動く者すら一人もいなかった。制圧のしようがない。
周囲を警戒しつつ進むヴァージルの足元に転がる死体。腐ったものから、真新しいものまで様々だ。
かつては軍の特殊部隊に
背後で、ドアが開く音がする。大人数が入ってくる足音がする。だが、ヴァージルは振りかえりもしない。どこの馬鹿がやって来たのかは理解しているし、背後から撃たれたとしても避ける自信がある。
「よぅ、俺たちも調査の仲間に入れてくれよ。……あれ、カンザキの旦那は別行動かい?」
ガストンが
ヴァージルは死体の財布から抜き取ったカードを一枚、懐に入れた。
「なぁ、今いったい何を……」
その場面を見て、さらに近寄って来たガストンの
周囲の兵たちが一斉に顔を上げる。熱線銃を向ける者も数名いた。
「動くな!弾の一発でも撃ってみろ、こいつの首を跳ね飛ばす。その後、貴様らも皆殺しにしてやる」
魔王のごとき宣告が、数十名の兵を縛り付けた。
普通に考えれば、ガストン一人を殺すことはできても、数十の熱線銃に狙われて逃げおおせるはずもない。だが、この男はやる。その自信に満ちた声と立ち振る舞いが、兵たちに確信を与えた。
「ひとつ、聞きたいことがある」
「な、なんだい。スリーサイズなら勘弁してくれ、バストとヒップに自信がないんだ」
ガストンは精一杯強がり冗談を飛ばすが、ヴァージルは一切取り合わない。これから
「酒場で取り出したあの人形はなんだ。なぜ宇宙で回収した物に泥汚れがついている。しかも、ゴミ捨て場に落ちていたかのような
剣を押し当てられた首筋から、ツ…と、一筋の血が流れる。今さらただの冗談でしたで済むような雰囲気ではない。
「俺はゾンビの作り方は知らんが、死体の作り方ならよく
剣よりも冷たい言葉が、ガストンの胸を刺し貫く。
「わかった、全部話すよ!確かにあれはゴミ捨て場で拾ったものだ。店に入る前にたまたま見つけて、こいつは使えるかもしれないってことで懐に入れておいたんだ。スペース・デブリの艦長は情にもろいお人よしだって聞いたんで、
「なぜそうまでして俺たちにつきまとう。貴様の目的は何だ?」
「う……」
少しだけ口ごもるが、ヴァージルの剣が先を促す。このままでは地獄に落ちる前に舌を切られそうだ。
「宇宙平和……」
「そうか、よし、わかった。死ね」
「いやいや、本気だから!まずは落ち着いて聞いてくれよ!」
尻を蹴とばされ、そのまま床に倒れ込んだ。どうもさっきから良い所なしだなと考えながら、ガストンは上半身を起こした。
「俺はこの宇宙が好きなんだよ。それと同じくらい、宇宙を荒らす連中が憎い。なんとしても幽霊船退治は成功させたかった。でも、少佐の身じゃあ軍の他の艦を動かすことはできないし、民間で戦える船と接点を持ちたかった。これは偽らざる本音だよ」
自分でも驚くくらい、すらすらと言葉が出てくる。当然だ、これは真実であり、あれこれ考え、言葉をこねくりまわすようなものではないのだから。
しばし流れる沈黙。ガストンの言葉をどう受け取ったのか、ヴァージルは剣を下ろして、ふん、と鼻を鳴らした。
「あの男を
「あ、ああ……
助かった。腰が抜けて立つことができない。部下が見ていなければ小便を
ヴァージルは、ここでやるべきことはもう無さそうだと判断し、カンザキと合流すべく艦橋部を出ようとした。その背中に、せめてもの抵抗とばかりにガストンの声がかかる。
「民間人には関係ないかもしれないけどさ、俺、政府軍の少佐よ?もうちょっと
立ち止まり、振り向いていった。仲間がつけてくれた肩書に、自信をもって。
「それがどうした。俺は大佐だ」
輸送戦艦SPACE-DEBRIS 荻原 数馬 @spacedebris
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