死者たちの舞踏
第40話
第三宙域首都星レークスから
もっとも、この政府の目の届かない場所、という点が問題であり、軍の
巡回任務中の1隻の戦艦が、海賊船5隻に囲まれていた。本来ならば勝負にすらならない。即座に降伏したとしてもなんら非難される
むしろ乗組員の安全を優先するならば降伏が
しかしこの時、政府軍は海賊の
できる限りの抵抗はした。
海賊船団のうち、一番前に出ていた駆逐艦が
慌てて反撃を開始するも、海賊側は指揮系統が混乱しており連携が取れず、散発的な攻撃しかできずにいた。レーザーはバリアに弾かれ、ミサイルは迎撃用小型ミサイルの
そうした攻撃の合間に戦艦から徹甲弾の集中が浴びせられ、1隻、また1隻とスクラップができあがる。気が付けば動ける艦は
「回線を開け!降伏だ、降伏を申し出るぞ!」
海賊頭は
降伏すると言っても、誰からも非難の声はあがらなかった。
艦の性能か、人員の
第三宙域、宇宙連邦政府軍少佐ガストンは浅黒い顔の、あごに伸びた
「降伏するので今すぐ攻撃を止めてくれ。
とのことである。
ガストンはあきれ顔で首を回し、背後を振りかえる。艦長席のさらに後ろ、一段高い所に
首元に光る
この異常な好待遇について、兵たちからは不平不満は一切挙がらない。それもそのはず、彼女こそ、この第三宙域の自治領の中で最も強大なラウルス自治領の一人娘であり、最新鋭の戦艦は彼女の私物である。名を、チドリ・ラウルスという。
支給された型落ちの艦とはまるで性能が違う。戦力はいわずもがな、高い
この
「長い航海なればこそ、兵どもの疲労には気を使わねばならぬ。にもかかわらず、軍というものは兵を
彼女が兵たちから
「
と、まるで取り合わなかった。
今、正面大型モニターの中で必死に自己弁護をしている海賊を道端にぶち撒けられた汚物を見るかのような冷たい目で見ている。
ガストンが苦笑いしながらこちらを見ていることに気づくと、チドリは扇子を畳んで首のあたりをスッと滑らせるようなジェスチャーをした。ガストンは頷き、マイクを握って少々おどけたような声を出し、海賊の演説に割り込んだ。
「あー、海賊諸君、君らにひとつ聞きたいことがあるんだがよろしいかね?」
話が少し前に進んだと
「…君たちは民間船に、襲わないでくださいって言われたら、襲うのを止めるのかい?」
海賊の表情が固まる。そんな訳があるか、と叫びだしたかった。だが、そんなことを言えば返ってくる答えも決まっている。じゃあ、こっちも止めないよ、と。
ガストンの薄笑いを見るに、答えようのない質問をして海賊たちをおちょくっているのだ。それがわかっていながら
「えぇと、それは…、時と場合によっては見逃すかな。はは…。」
「へぇ、どんな場合だい?」
「例えば、女子供が乗っている時とか…。」
「だったらお前らは助けなくてもいいな!」
通信を一方的に打ち切る。今度はガストンが振り返るまでもなく、チドリが立ち上がり扇子を大きく開いて前へ突き出した。
「徹甲弾斉射用意!
「イェス、マム!」
チドリの
「発射!」
バサリ、と音を立てて扇子が振り下ろされる。同時に戦艦前方の装甲が開かれ、巨大な回転連発式機関銃が前へとせり出す。ゆっくりと回転を始め、300mm徹甲弾が真空中に勢いよく放たれた。
火器管制システムがよほど優秀なのか、数百万km離れた海賊船に一発、二発三発さらには十数発、数百発と次々に命中する。
装甲を貫き、格納庫で暴れまわり、エンジンルームを破壊する。弾薬庫に襲い掛かり、ミサイルに誘爆する。艦橋部に飛び込んだものもあり、海賊頭は叫び声を
あげる
つい先ほどまで動いていた戦艦が爆発四散するまでわずか数秒。役目を終えた巨大機関銃は音もなく引き込まれ、装甲によって
敵旗艦の他に、何隻かまだ形を保っているものもあるが、どれも全て穴だらけであり、航行不能である。
「
チドリは満足げに頷き、畳んだ扇子を手のひらにぺちぺちと軽く叩きつける。少々意外そうな顔して、ガストンが
「あの船は持って行かないんですかい?ボロ船ですが、売れば
「修理したとて使えぬわ、あんなもの。古いものを無理に修理して使い続けようとすれば新品を買うより高くつくし、不便なものよ。骨董趣味として
「船として運用することはできずとも、鉄くずとしてリサイクルできる部分はいくらでもあるでしょう。」
「ここから首都星、あるいは妾のラウルス自治領へ運ぶにしても、輸送コストがかかりすぎるわ。割に合わぬ。一番近い自治領に、せいぜい恩着せがましく伝えてやれ。海賊を沈めてやったぞ、と。」
チドリは出来の悪い生徒に説明する教師のような口調で語りかけた。ガストンは首都星にある自室のエアコンを思い浮かべながら黙って頷いた。帰ってボーナスをもらったら、買い替えようと。
「それに、付近の回収業者の仕事を奪うのも気が引けるでな。」
「なるほど、それが正しいご近所付き合いというわけですね。」
「ごきんじょ…いや、まあ、そういうことになるか?」
急に話がスケールダウンしたことに
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