第7章
7-1
7-1
目を覚ました。酷い匂いだ。吐瀉物と排泄物の入り混じった悪臭。酸っぱく粘り強い喉をくすぐるような感覚。
「クソ」
匂いの元はエリオット自身だった。ローゼンベルク修道院で貰った白いシャツが吐瀉物と血、ズボンは漏らした尿で汚れていた。乾いているが匂いは健在だ。気を失った後か、その最中か、自分は吐いて漏らしていたらしい。
椅子に縛られて身動きが取れない。顔も含めて体中が痛む。
目の前には扉。だが遠い。そもそも動けない。机もある。上には剣、斧、ナイフ、鞭、金槌、ノコギリ、針。拷問器具が揃ってる。ため息が漏れた。
鼻の穴で血が固まって呼吸がし辛い。両手が塞がっているので、ほじくろうにもどうにも出来なかった。
アンナの奴――。俺を置いて逃げやがった。
「お目覚めか」
後ろから声がした。首を曲げてなんとか視界の端に収めて確認する。部屋の隅、影の中からハンスが姿を現した。
「よりによってあんたかよ」
エリオットがいった。
「誰ならよかった」
「女なら誰でも」
エリオットは笑った。
「そんなにおかしいか?」
「あんたは女か?」
ハンスは返事をせず近づいてくる。
「俺は男だ」
殴られた。
血で固まっていた傷口が広がる。鼻から血が落ちるのがわかった。生温かい感覚。
「わかったか?」
顎を掴まれ、顔を上げられた。
「あぁ、そうか――。股間についてる鼠の鼻みたいなのがイチモツか。確かに男だ」
「図に乗るなよ」
ハンスが唸る。
「くたばれ、メス豚」
クソ。
今度は腹を殴られた。椅子に固定されているので衝撃が流れず、全てが体に突き刺さる。また吐いてしまう。だがもう出すものがないのか、半透明の唾みたいな液体が口から出た。
「これからどうなるかわかるか?」とハンス。
机の上にある鞭を取った。
「美女に囲まれて楽しく暮らせるんだろ?」
「だろうな」
股間を鞭で撫でられる。
「楽しませてくれよ、マジで」とエリオット。
股間を鞭で思い切り叩かれた。
「んーーー」
痛みを堪えるために体全体に力を込める。
「教えてやるよ」
ハンスがまた股間を叩く。
「何でも教えてくれ、俺は勤勉なんだ」
「お前は死ぬぞ」
「お前もいつか死ぬ」
今度は肩を叩かれた。「あぁぁーーーーー」
「死にたくないだろ?」
ハンスが微笑む。
「初めて気があったな」
「女はどこへいった? 鍵はどこだ」
鞭を置き、ナイフに持ちかえる。
「アンナのことかよ」とエリオットは呆れる。「見つけられないのか?」
「どこだ。教えてくれれば死ななくて済むぞ」
「嘘だ。誰もが死ぬ」
「どこだ」
「間抜けには教えられないね」
「ふざけるな」
ハンスがナイフをエリオットの左の二の腕に突き刺した。
「あぁぁぁぁぁぁ」
目で刺された傷を確認する。痛みが増した。出血が止まらない。左腕が血で赤く染まる。しかも深い。骨に到達している。
「あの女は、鍵はどこなんだよ」
目の前にハンスの四角い顔面。怒鳴られる。
「知らない。あんな奴。鍵もなんのことやらさっぱりだ」
声を出すのも辛い。涙が出てきた。汗が止まらない。痛みと熱さ。
「仲間だろうが」
「仲間じゃない。利用されてただけだ。あぁぁぁぁぁぁぁ。クソクソクソクソ」
左の二の腕、先ほど刺された傷にもう一度ナイフを突き刺された。
「やめてくれ。クソったれ。抜いてくれ。あぁぁぁぁぁ」
エリオットは叫んだ。「お前、絶対に殺してやる。殺してやる。ふざけやがって」
痛みで気が狂ったようにとにかく叫んだ。
「妹のカテリーナを知らないと思うか?」
ハンスが呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます