第4章
4-1
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二階の寝室へあがった。
「なんでデブっていったんだ」とエリオット。「余分に金を払った」
「お前、顔が笑ってるぞ」
アンナが指摘する。
「複雑な感情ってやつだな。痛快でもあった」
寝室へ入る。
「お兄さま」
カテリーナが駆け寄ってきた。少女のような高い声に金髪。黒く細い眉に、二重の青い瞳。背はエリオットより少し低い。麻の寝巻きを着ている。「お久しぶりです。お元気でしたか?」
「まぁまぁかな」
エリオットはいった。
「こちらの方は?」
「仕事仲間だ」とエリオットはアンナとカレンを紹介する。
「アンナだ」
「カレンです」
「はじめまして。カテリーナです。すいません、こんな姿です」
カテリーナが礼儀正しくお辞儀をする。
「ちょっと仕事の話があるから、外してもらっていいか」とエリオットがいうと、カテリーナは頷いて一階に下りていった。
「本当にお前の妹なのか?」とアンナ。「全く無礼者じゃない」
「腹違いだ。俺とは違う」
「だろうな。今までのお前の言葉で一番説得力がある」
「無礼者で悪かったな」
「それだけじゃない。ノロマで馬鹿だ」
「カレンの話をしよう。俺の話はもういい」
エリオットはベッドに腰を降ろした。アンナは壁に背を預けて、カレンは椅子に座る。
「エドゥアールの死を知ったのは?」とアンナ。
「家に行きました。そこで見たんです」
カレンは太ももの腕で組んだ指を見ながら答えた。
エドゥアールの死体は放置したままだった。それを見たのだろう。
「奴の仕事は知っていたのか?」
「阿片ですよね」
知っていたのか。
エリオットとアンナは顔を見合わせる。
「だからヴァレンシュタインを殺しに行ったのか」
「それは――。はい――」
自分のやったことを思い出して恥じているようだ。
「知っていて結婚したのか? まぁ正式なものじゃないが」
「赤ん坊が出来たんです。お腹に」
カレンが腹を摩る。
アンナが舌打ちをした。
「男はこういうのに弱い」とエリオットがいった。「阿片の密売人も人の子だったってことだ」
「近頃のヴェトゥーラは弛んでいるな」
「彼は悪くないんです。私が一方的に好きになって、それで――」
カレンがエドゥアールを庇った。
「そういうのはいい」
アンナははっきりという。「どうしてヴァレンシュタインがエドゥアールを殺したと思った」
「何日か前に彼はヴァレンシュタインさんと話があるといって家を出ていったことがあったんです。それで戻ってきたら、すごい怒ってて。理由は話してくれませんでした。私も仕事については詮索しないようにしてましたし。けど彼の――、その――、死体をみたときに、すぐにヴァレンシュタインさんがやったんだってわかりました。それしかないって」
「揉めたのかな」
エリオットはアンナをみる。
「だろうな。分け前を増やせとか阿片の値上げを要求したりとか。それで揉めて殺された。まぁそんなところだろう」
「思い切ったことをしたな。相手はサウスタークの諜報員だぞ」
「楽園派のアーシュ騎士団に自信があったのかもしれない。お前の家に来た赤いローブの大男、なかなかの魔導士だったじゃないか」
宗教派閥は大抵、自前の騎士団を持っている。元々は過去に起こった聖地戦争のときに、邪教や蛮族に奪われた聖地を取り戻すために組織されたもので、その名残りが今でも続いている。
「どう思う?」とエリオット。
「色んなことが見えてきたな」
アンナは呟いた。「ヴァレンシュタインはエドゥアールなし、つまりヴェトゥーラなしで阿片の取引に乗り出したかったんだろう。たぶんヴェトゥーラに仲介料を払っているのが嫌になったんだな。あとは奴が市参事会員に当選したのも関係あるだろう。敵国諜報員との繋がりを消して綺麗な身体になりたかった」
「それでエドゥアールを殺したってか」
「まぁ色々あって、簡単にいうとそういうことじゃないか。結局、奴らは阿片の村にも来て生産を確保した。見たろ?」
「確かに見た」
阿片村で見たエーリカを思い出す。
「だが謎も残る」
「なんだ」
「鍵だよ。お前の家に来た魔導士は鍵を探していた。私は今まで、この鍵は隠している阿片を保管している倉庫とかの鍵なのかと思っていたが、奴らは阿片をもう手に入れている。じゃこの鍵はなんだ。なぜ魔導士は鍵を求める?」
アンナは鍵を見せながらいう。
「いわれてみればそうだな」とエリオット。「残りの阿片とか? どっか鍵のかかった場所に保管してる分があるのかも」
「お前は呑気だな。村を抑えたのにそんなことするか」
それからアンナはカレンに「この鍵について何か知らないか?」といった。
「すいません。何も」
カレンは申し訳なさそうに答えた。
「じゃ阿片以外の素敵なものってことだろ」
エリオットが口を挟む。
「それが何かを話してるんだ、クソ馬鹿」とアンナ。
「もう喋りません。俺は絶対に喋らない。喋らないぞ」
「あの――。阿片窟には行かれましたか?」
カレンがいった。
「どういうことだ?」
「彼、その、仕入れた阿片を、たまに少しくすねて阿片窟に卸してたんです。子供のために小遣い稼ぎだっていって」
阿片窟は、阿片と吸引器具を置いている店だ。街にはもちろん看板を出していないがいくつか存在している。
「お前は罪な女だな、カレン」
アンナは微笑んだ。「どこだ、場所を教えろ」
「おい。そんなこといっても鍵の謎はわかんないだろ」
「ここにいても埒は明かない。それにこの鍵は、たぶんお前の言い方を借りるなら、阿片以外の素敵なもの。真実ならもっと素敵な金になる」
「そんな調子いいことばっかいって、今まで一つも金になってないぞ」
苦労だけが増えている。
「お前の妹は美人だな。借金返済をしてもらってもいいかもな」
「それは絶対に許さない」
「じゃ金になることをするんだな。カレン、場所を教えろ」
阿片窟へ行くこととなった。
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