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 ルメールダニー通り、モードリッチ墓地近くにカレンのいう阿片窟はあった。居酒屋風の建物だが営業しているようにはみえない。

「気味悪い店だな」とエリオット。

 軒先にはクモの巣が張っている。地面には乾いた吐瀉物。

「だが阿片のにおいは漏れてくる」

 アンナがいった。

「あんた鼻がいいな」

「お前は犬のわりに鼻が悪い。犬並みなのは頭脳だけだ」

「俺の負けだよ。もう俺には何もいわないでくれ。和平を結ぼう」

「あいにく犬とは条約を結べない」

 アンナが扉を押した。軋んだ音。

 店内へ。暗く、阿片の香りが充満している。ベッドが室内に敷き詰められるように並べられていて、そこに人間が横たわり、吸引器具の棒を口に加えていた。異様な光景と匂い、退廃的な雰囲気にエリオットは圧倒される。

 ここは阿片窟でも重度の中毒者が多い店だった。ベッドで横たわる全員が虚ろな瞳で気だるそうにただただ一点を見つめて阿片に溺れている。太っている人間は一人としていない。皆が皮と骨の身体をシミだらけの服で覆っている。

「どうも。はじめてですか」

 店の男らしい。こいつは健康そうだ。儲かっているのだろう。短い髪にはっきりとしたほうれい線と紫色の唇で顎鬚を生やしている。俺たちをからっているのだ。話すと、かけた前歯が見えた。

「はじめてだ」

 アンナはいった。

「だったらうちじゃなくて、別の店へ行ったほうがいいでせぇ」と男はいった。

「私はここにいる無様な中毒者に見えないか?」

「えぇ。とても健康にみえまさぁ」

「節穴だな」

 アンナの会話を聞いていると喧嘩を売っているとしか思えない。

 エリオットはすかさず「人を探している」と会話に割って入った。

「人探しの協力はできやせん」

 男はにやにやしながら答えた。「うちがやるのは阿片だけでさぁ」

「はっきりいってくれる」とアンナ。

「文句があるなら出て行ってくれやせぇ」

 男も負けていない。こういう商売だ。舐められてはやっていけない。

「エドゥアールだよ。俺たち探してるのは。あんただってそろそろ阿片の仕入れが必要だろ?」

 エリオットがいった。アンナには任せてられない。

「ふん」

 男が鼻を鳴らす。「エドゥアールですかぁ。奴がどうかたんですかぁねぇ?」

 どうやら死んだことはまだ知らないらしい。

「奴はもう阿片を運ばない」とアンナ。

 男の顔つきがかわった。アンナの言葉の意味をわかっているのだろう。

「エドゥアールを探してるんじゃなかったんでせぇ?」

 男はいった。「話の筋が通ってないでずぜぇ。あんたらはエドゥアールに会ったから、そんなことがいえるんでしょうが」

「私の話の筋が通ってないことを指摘すれば、阿片の卸しが再開するとでも思ってるのか?」

 確かにアンナのいう通りだ。言葉尻を掴まえたところで、何も解決しない。

「おたくらの本当の目的はなんでんで?」

「お前も阿片がほしいだろ。商売あがったりだもんな」

「早くいってくだせぇ」

 男が苛立っている。焦りが目に出ていた。

「この鍵だ。エドゥアールが持っていた。阿片の密売に関係あるらしい」とアンナは鍵を見せる。「たぶんこれは阿片を保管している倉庫か何かの鍵だろう。どうだ。心当たりはないか?」

 鍵はたぶん阿片を保管しているものじゃない。だがここでは嘘も方便。餌をぶら下げた。

「阿片が見つかったらどうなるんですぜぇ」

 男がいった。まだ警戒を解いていない声だ。

「分けてやるよ。タダで」

 アンナがいった。

「気前がいいっこたぁ」

「半分だけだぞ」

「ちょっと待っててくだせぇ」

 男は店の奥に消える。

「何か心当たりがあるのか?」

 その後姿をみながらエリオットはアンナにいった。

「だろうな」

 すぐに男が戻ってきた。手紙を持っている。

「エドゥアールから預かっていたもんでさぁ。ある晩、市外の風車塔へ呼び出されたんですわ。そこでこれを渡されたんでせぇ。俺に何かあったら店に女が来るはずだからそいつに渡せ、といわれていました。中身は見たことがありませんぜ。誓っていい。中身は知りません。何かの手がかりになるかもしれませんぜぇ」

 封筒だった。蝋で封がされている。

 アンナはそれを受け取った。

「エドゥアールは誰かと一緒に来てたりしなかったか?」とアンナ。

「いや、奴はいつも一人でしたぜぇ」

 男は答えた。「阿片が見つかったら、よろしく頼みまさぁ」

 店を出た。店を出るなりアンナは手紙を開ける。


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