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 地下に案内された。女はエリオットとアンナを残してさっさと消えた。

 湿気が高い地下室。窓はない。蝋燭が至るところにあり、火が灯っている。だから地下なのに暑いほどだった。心地の悪い部屋だ。

 部屋の奥には、机に向かう男の背中があった。とても小さい。子供ほどだ。

「お前らか」

 横柄で神経質そうな声だった。椅子から立つ、というよりも、降りる、といった動作をして、こちらを向く。背も低いが、手足も短い男だった。顔だけはしっかりと成人していて、老けている。飛び出したように大きめ、割れた唇に出っ張った顎、低い鼻。醜い小人だった。

「怯えるな。こういう病気だ。小人病なんだ。生まれつきだ」と男はいった。

「セバスチャンだな」

 アンナは腕を組む。

「お前の名前は?」とセバスチャン。

 四方の壁に小人の影が揺れる。エリオットの額から汗が落ちた。暑さと湿気が体力をじりじりと奪う。

「素晴らしいアンナさんとその犬」

「俺はエリオットだ。犬じゃない」

 すぐに付け加える。

「私が誰かわかっているのか?」

 小人のセバスチャンの態度はでかい。コンプレックスの裏返しなのか。

「錠前職人組合の組合長。そして元市参事会員。あんたが市参事会員に落選したから、楽園派とかいう新興派閥の指導者、ヴァレンシュタインが新たな市参事会員に収まった」

「アンナ、挑発的な女だ」

 セバシチャンはいう。エリオットはその背後にある机を見た。鍵が幾つも置いてある。解体されているもの、完成されているもの、様々な鍵が積まれていた。

「情報とはなんだ?」とセバスチャンが続けた。

「あんたが市参事会員に戻れる情報だ」

「早くいえ。仕事があるんだ」

「興味津々みたいだけどな」

「駆け引きはいい」

「ヴァレンシュタインは阿片の密売をしている」

「ふーん」

 セバスチャンが鼻を鳴らす。「なるほどな。奴の金の出所はそういうことか」

「証拠は?」とセバスチャン。

「それはいえない」といいながらアンナが鍵を放った。土から掘り起こした鍵だ。

「普通の鍵だな。うちの組合のものじゃない」

 受け取り、一目見てセバスチャンがいう。「返す」

 鍵がアンナに戻ってくる。

「わからないのか?」とアンナ。

「どこの組合かもわからない。印がないね。つまらないことに時間を使わせるな」

「まだある。別の鍵だ」

「小出しにするな。金が欲しいのか?」

 セバスチャンがいった。釣られた。

「エーリカという女を捜している。赤毛で左頬に傷がある。楽園派のアーシュ騎士団の女らしい」

「そいつが鍵なのか」

 錠前を撫でるセバスチャン。

「情報の交換というわけだ。あんたに危険はない。ただ知っていることを話すだけで、あんたから地位と名誉を奪ったヴァレンシュタインを蹴落とせる。悪くないだろ?」

「良いか悪いかはこっちが決める」

「私は別にあんたを支配したいわけじゃない、セバスチャン」とアンナ。「エーリカについて知っていることを話して欲しいといっているだけだ」

「いいだろう。取引成立だ。エーリカ・クローゼンはアーシュ騎士団の幹部で、騎士団長アルベール・イーリェの公私に渡る右腕。つまりなかなかの大物だ。女だが傭兵上がりでいい根性をしている」

「どっかの誰かと同じだな」とエリオット。アンナを横目で見る。

「家を教える。あとはそっちでなんとかしろ」

 セバスチャンが机に向かう。

「さすが錠前職人だ」とアンナ。

 それからセバスチャンは黙って通りの名前が書いてあるメモを寄越した。


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