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 女がヴァレンシュタインに突っ込んで行く。

 茶色く長い髪の女だった。

「気合入ってんな」と女を見てアンナがつぶやく。

「おい、その女を止めろ」

 どこかから声が飛んできた。エーリカが動き出す ヴァレンシュタインが危険を察して身を屈めた。広場の人々から声があがる。

「ハンス、その女を止めろ」

 エーリカが叫んだ。

 エーリカともう一人、肩幅の広い大男が女とヴァレンシュタインの間に飛び込んだ。大男がハンスという名前か。

 エーリカがヴァレンシュタインを守り、ハンスがナイフを持って走りこんできた女に突っ込んだ。

 ハンスが女の手元を掴んでナイフを落とすと、そのまま首に腕を回し拘束した。

「あんたのせいであの人が殺された。私の夫は殺されたの」

 拘束された女が叫んでいる。足をじたばたさせながらも、執拗に叫びを続けた。市の衛兵がやってきた。叫び続ける女を連行する。広場は騒然としている。混乱は続いていた。

「誰かが殺されたらしいな」

 アンナがいった。

「人間はいつか死ぬからな」とエリオット。

 嫌な予感がした。話をはぐらかす。

「あの女に会うぞ。匂う。金の匂いだ」

「やっぱり――」

「嫌そうだな」

「あんたの考えることは嫌いなんだ。エーリカはいいのか?」

「女に話を聞いてからだ。面白い話が聞けそうじゃないか。手元のカードは多いほうがいい」

「楽しそうだな」

「エリオット。牢獄に行く方法を知ってるか?」

「断れないのか? その提案」

「知っているか、と聞いただけだぞ」

「わかってるくせに」

 方法なら知ってる。「伝手がある。死刑執行人時代の組合仲間が、マリアノフの首斬りだ。まぁ俺の叔父なんだけどな。その人に頼めば地下牢に入れる」

「よし行くぞ」

「待て。本当に会うだけだろ? さっきの女に会うだけだよな」

 念を押す。

「何を心配してる。脱獄を手伝うとでも思ったか」

 なるほど。そういうことか。「地下牢の鍵を手に入れてこい」

 エリオットは「クソ」と呟いた。

 この女が大人しくしてるとは思えない。

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