6-3
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夜を待ってからセバスチャンの家を出た。小人病のセバスチャンが歩くと、どうしてもせわしなくみえる。大人のエリオットとアンナの早さに合わせているからだろう。つまり逃げ足は早くない。道具はエリオットが持った。理由は奴隷で犬だから。
アルベールの屋敷はセバスチャンの家があるキーウェスト通りからすぐのリブス通りにあった。
聖母フラウエン教会が見える目抜き通り沿いにある屋敷だ。リブス通りの中でも大きな建物で忍び込むのは容易じゃない。
「裏だ」
セバスチャンがいった。三人は路地に入り、屋敷の裏に回りこむ。
「中へ投げてくれ」
塀を見上げてセバスチャンがいう。
「何いってんだ」とエリオット。
「俺は小さいから上れない。だから投げいれてくれ。お前らはよじ登って来い」
「子供の玩具だな」
「あんまり高く上げるなよ」とセバスチャン。
「祈れ」
アンナがセバスチャンを持ち上げ、塀の中へ放った。
塀の向こうから物音がした。
「私たちもいくぞ」
先にアンナが塀へ飛び乗る。相変わらずの跳躍力だ。
「手を貸してくれ」とエリオット。
「ほら」
アンナの手を握り、引き上げて貰う。
三人とも屋敷の敷地内に入った。広い中庭だ。植木には手入れが行き届いている。
「噴水がない」とアンナ。
「好きなのか」
エリオットがきく。
「いや嫌いだ」
「もうわけわかんねぇよ」
「衛兵だ」とセバスチャン。
茂みに身を屈めた。
「あいつが行ったら、あそこの扉に行くぞ。セバスチャン、あけられるか?」
屋敷から中庭に出るための扉だった。他に通じるところは見当たらないので選択肢はない。だが中庭に通じる扉だけあって、遮蔽物がない。
「開けてる間はどうする? 丸見えだ」とエリオット。
「いい質問だな」
「丸見えのまま解錠作業か?」
「いつ私がそんなことするといった?」
「策は?」
「ある。お前、火口箱は?」
「持ってるが――。まさか、アンナ」
「そのへんの木を燃やして来い。立派な中庭じゃないか」
「静かにやるんじゃなかったのかよ」
「冬の夜は乾燥する。噴水がないのはだからよくないんだ」とアンナ。
エリオットは庭の隅に移動し、植木に火をつけた。火種が枝に移ったのを確認すると、アンナとセバスチャンの元へ戻る。
丁度、火が回り煙が出始めた。
「行くぞ」
アンナがセバスチャンにいう。
「任せろ」とセバスチャン。
壁伝いに影の中を移動する。
丁度、入れ違いで衛兵たちが火の手に気づき、声をあげた。陽動作戦は成功した。
セバスチャンが扉の前へ。
丸見えだ。アンナとエリオットは植木の死角に隠れて見守る。
セバスチャンが革袋を広げて、道具を取り出した。短い腕を動かして、専門の工具を鍵穴に二本突っ込んだ。
「水を持ってきてくれ」と中庭の隅から衛兵の声。
早くしろ、とエリオットは祈る。
セバスチャンが工具を動かし、鍵穴を弄る。
「まだなのか」
アンナが苛立っている。
そのときだった。
「マジかよ」
エリオットは思わず呟いた。
扉が内側から開いたのだ。女だ。火事の騒ぎを確認するためか、女が外へ出ようと内側から扉を開いたらしい。
開いた扉からは寝巻きを着た年増の女性の姿が見える。セバスチャンは動けず、硬直していた。
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