6-2
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二度目の来訪にセバスチャン・ブランドは不機嫌そうだった。屋敷につくと、すぐに地下へ案内された。相変わらず湿気が高い。蝋燭の火が揺れていた。この地下には昼も夜もない。
「当ててやろうか?」とセバスチャンはいう。
机に向かって錠前を弄りながら、エリオットとアンナのことは一目も見ない。
二人が黙っているとセバスチャンは「問題が発生した。違うか? お前らは危機に陥っている」と続ける。
どこか嬉しそうで、振り向くとやはり微笑んでいた。
「逆転を狙っているのさ」とアンナ。
「私の知る限り、お前は指名手配だぞ」
「情報通だな」とアンナ。
「だが遅れてる」
エリオットが続けた。「情報ってのは鮮度が大事だ。な? アンナ」
「長老派のルーベンに掛け合って指名手配を保留にした」
アンナがいった。
「大物を巻き込んだんだな」
セバスチャンがわざとらしく肩をすくめる。
「お前のことはいってない。安心しろ」
「今度は何の話だ」
「アルベールだ」
「エーリカの次はアルベール騎士団長様か。そしたら次はあのヴァレンシュタインか」
セバスチャンの癇に障る声が響く。
「今夜、侵入する。手助けがいる」
「押し入って殺せばいいだろ」
元市参事会員とは思えない発言だった。
「そうして欲しいのか?」
「私はヴァレンシュタインに関わる全てが嫌いだ」
「だが残念。殺しはできない。保留の指名手配が有効になる」
「希望は?」
「穏便に忍び込みたいんだ。窓を割ったりドアを蹴破ったりせずに、賢く静かに忍び込みたい」
「で、私にどうしろって?」
「鍵を渡せ。あるんだろ? あんたほどの男が切り札を持ってないとは思えない」
「錠前職人には掟がある。顧客の鍵を決して他人に渡してはならない」
セバスチャンの口調が強くなった。
「仕事に誇りを持っているんだな」
「掟を破る気は?」
エリオットが聞いた。
「馬鹿にするなよ、小僧」
小人病のセバスチャンがいった。壁に映る影のほうが大きい。「私は鍵を渡さない」
「困ったな」とアンナ。「解決策があったと思うんだが」
「この掟に妥協はない」
「じゃ、どうして私たちを帰らせない?」
アンナが微笑む。
「鍵は渡さない」とセバスチャンがいった。「だが、私を連れて行け。開けてやる」
つまりこれは屁理屈だ。
エリオットはそう思った。
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