第6章

6-1


   6-1


 手紙を預かったロドマンと馬車に乗ってマリアノフへ戻った。

「ここで降りるぞ、エリオット」

 馬車がマリアノフの第四市門に入ったところでアンナがいった。「ロドマン、降ろせ」

「勝手に降りろ」とロドマン。「いったろ、俺はお前が嫌いだ」

「助かったよ」

 エリオットがロドマンの肩を叩く。

「行くぞ」とアンナ。

 馬車を降りた。昼だった。

 そのままリブス通りの食堂へ入る。席につくなり注文をした。パン、バター、チーズ マスタードで味付けした燻製ニシンにトマトと豆の煮込み、それに牛肉のパイとニンニク。ワインとビールももらう。

 テーブルの上には二人分とは思えない量の料理が並んだ。

「すごいな」

 エリオットがつぶやいた。腹が鳴る。

「食うぞ」とアンナ。

「わかってるよ」

 二人はがっついた。


   ■


「もう食えねぇ」

 エリオットが腹を叩く。空いた皿がテーブルに並んでいた。

「行儀が悪いぞ」とアンナ。

「ずっとろくに休まず食事も取れなかったんだ」

「これからまだまだ働く」

「どうすんだ」

 できればずっと食堂にいたかった。「このままだと俺は死ぬし、あんたは死ぬまでタダ働きだぞ」

 想像するだけでぞっとした。

「アルベールを突く」

 アンナがパンの切れ端にナイフを突き刺した。

「ヴァレンシュタインじゃないのか?」

 アルベールは昨夜、エーリカの屋敷にいたアーシュ騎士団の団長だ。

「アーシュ騎士団が楽園派の裏稼業を仕切っているのはもはや確実だ。だからそこの団長を抑える。奴は阿片、寄生虫、関わっている裏稼業の証拠を必ず持ってるはずだ」

「エーリカは?」

「その上がアルベールだろ。あんな三下にはもう用はない」

「時間がないもんな。行くのか?」

「まだ真昼間だ。夜を待ってアルベールの屋敷へ忍び込む」

「お、意外に慎重なんだな」

 イケイケで向こう見ずなアンナのことだからすぐにでも乗り込むかと思ったらそうではない。

「お前、頭は大丈夫か? 自殺志願者か?」

「そんなにいわなくてもいいだろ」

「作戦がある。行くぞ」

 アンナが立ち上がった。食事代をテーブルの上に放る。

「どこだよ」

 こいつの作戦は碌なもんじゃない。

「セバスチャン・ブランドだ」

「またか」

「苦手か?」

「陰気臭いね、あいつ。怒りっぽい男と不機嫌な女がやって、森の深くにある黒い沼で産んだらあんなのが出来そうだ。苦手だよ、あぁいう奴」

「あとでいっとく」

「どうぞご自由に」

 食堂を出て、キーウェスト通りへ向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る