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「クソ」

 アンナは立ち上がり、扉へ突っ込んだ。エリオットも続く。アンナは扉を開いた女を捕まえ、室内に押し入る。エリオットはセバスチャンの首根っこを掴み、同じく室内へ。

「結局、こうなる」

 エリオットは目の前の光景を見て首を振った。アンナが女に馬乗りになって、口を抑えている。女は目を見開いて、アンナとエリオットへ交互に視線を移す。手足をジタバタさせていないので、まだ状況は把握できているのだろう。

「殺さない」

 アンナはいう。「だが答えろ」

 ゆっくりと口を抑えていた手を外す。

 女は胸を上下させて激しい呼吸を繰り返した。

「お前はアルベールの女房か?」

「そうね」

 低い声。敵意が含まれている。プライドの高そうな女だった。

「この屋敷に隠し部屋はあるか?」

「ないわよ、そんなの」

 反抗的な態度。アンナが首を締め上げた。

「しっかり真面目に答えろ」と続ける。「この部屋に隠し部屋はあるか?」

「ないけど、何かがあるとしたら地下でしょうね。アルベールはよくそこに行く」

「そこで何をしてる」

「知らないわよ。あの人が何してるかなんて」

「なるほどな」とアンナ。

 女ってのはそういうもんだ。「地下への階段は?」

「そこの扉の向こう」

 女が目で示す。

「もう離してよ」

 女がいった。

「よし、わかった。協力、ありがとう。あとこれは謝罪だ。すまんな」

 それから女を殴った。鈍い音。女が気を失う。

「容赦ないな」とエリオット。

「だったらお前が慈愛の精神で何とかしてみろ」

 アンナは立ち上がり、女をみて「そこの棚の中に押し込んどけ」と指示した。

「セバスチャン、一人で帰れるか?」とアンナ。

「顔を見られた」

 セバスチャンが呟いた。

「問題ない。こいつらは失脚して犯罪者になる」

「絶対に失敗するな。こんなのは、もうなしだ」

 セバスチャンが念を押す。

「こっちもやばい。失敗はない」とアンナ。「で、戻れるのか?」

「やるしかないだろ。どこかの荷物に紛れて外に出るよ」

 セバスチャンがいった。汗だくだ。相当気が張っているらしい。「クソが、クソが。だが俺は小さいしな。なんとかする」

「さすが市参事会員だ」

「元だ」

「これからまたなる。エリオット、隠したか?」

 アンナの声。丁度、棚に女を押し込んで扉を閉めたとこだった。不自然な態勢だが、骨は折ってない。

「えらいことになったな。あの女、鼻血出てたぞ」

「そんなこと聞いてない」

「隠したよ」

 エリオットはいう。

「地下に行くぞ」とアンナ。「じゃあな、セバスチャン」

「くたばれ」とセバスチャン。

 セバスチャンと別れて、地下に向かう。


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