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 ルスターク川を越えて、そのまま市庁舎と聖母フラウエン教会を通過。マリアノフ宮殿の手前で曲がり第一通りへ。第一正門の前に、ロマノフ大聖堂がある。大聖堂の入り口に続く大階段。馬車が三つほど止まっていた。

「急ぎの集まりらしいな」

 それを見てアンナがいった。

「たぶん俺たちの見立ては正しいだろうよ」

 エリオットは半分呆れていた。「今夜は運がいい」

 衛兵が二人いた。二人と目が合うと、近づいてくる。

「貴様ら、何者だ」

 衛兵の敵意むき出しの声。近づいてきた。

「信者だよ」とアンナ。「熱狂的な信者だ」

「そうだ。俺たちはめちゃくちゃ信者だよ。信仰心が抑えられない」

「ふざけるな」と衛兵の一人。

「気が立ってるな。相当な大物が中にいるのか?」

 アンナがいった。

「そんなこと答える必要ない」

 もう一人の衛兵がいった。

「どうしてどっちも俺たちを嫌うんだよ」

「怪しい者だからだ」と衛兵。

「ルーベンにアンナとエリオットが来たと伝えろ、クソボケ」

 アンナが衛兵の肩を掴んで力を込めた。衛兵は痛みに耐えきれず膝をつく。

「おい、貴様」

 もう一人の衛兵が剣を抜こうとするが、その手をエリオットが制止する。

「やめとけ」とエリオット。「長生きしたいだろ?」

「返事は?」

 アンナが肩を握る手に力を込めなおす。

「貴様、斬るぞ」

 エリオットの忠告も空しく、衛兵が剣を抜いた。アンナに刃を向ける。だがアンナは一向に手の力を緩める気配がない。

「二人とも離れろ」

 大聖堂の扉が開いた。中から男が出てきた。「私たちの客だ。剣を収めろ」

 男の一声で、衛兵は殺気を消し、鞘に剣をしまう。

 男は紫色のマントに手首には腕輪、十本の指には三つの指輪をして、首から何か大きな飾りを下げていた。

「すまない。アンナ君にエリオット君。どうぞこちらへ」

 男がいった。

「誰だ、あいつ」とエリオット。「名前も名乗らない」

「すごく偉い男だろ」

 アンナがいった。

「ま、名乗らないってことはそういうことだよな」

 ロマノフ大聖堂の中へ。


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