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荒らされていた。
テーブル、棚、引き出し、本、手紙、鍋、薪が散乱している。壷は割られてエールとワインが撒き散らされていた。
「妹の死体は?」
アンナの問いには答えずに二階へ。
二階も同じ状況だった。誰かが侵入し、この家を荒らした。
「死体はあったか?」
からかうようなアンナの声が一階から聞こえていた。
腹の立つ女だ。
エリオットは一階に降りて、「ない」といった。
「怒ってるのか?」とアンナ。
「あんたは笑ってるな。何がおかしい」
サウスタークの諜報員の死体、阿片、謎の鍵。続いて自分の家を荒らされた。
借金は減らない。
感情が爆発しそうだった。
「エリオット、お客が来たぞ」
アンナが扉を顎で差す。
開いた扉。暗い夜。赤いシルエットが浮かんでいた。
赤いローブを羽織って、顔は影に四角い顎と唇しか見えない。大男だった。がっしりとした広い肩幅がそびえる。
「鍵を渡せ」
男の声。低く潰れたような声だった。
「なんだ、それ。新しい本の題名か?」とエリオット。
「いいから鍵を渡せ」
「あんたが俺の家をめちゃくちゃにしたのか?」
エリオットは聞いた。
「外に部下を待たせている。早くしてくれ」とローブの男はいった。
「おだやかな脅しだな」
まるで他人事のようにアンナはいう。壁にもたれて成り行きを眺めている。「鍵を渡すなよ」
「それは俺が決める」
「絶対に渡すな」
アンナが繰り返す。
「あんたの命令は知らない」とエリオット。
「ならば話は早い」
赤いローブの男は手の平を握り、拳を作った。拳の上に小さな輝き。すぐに発火し、炎となった。
魔導士なのか――。エリオットは状況を理解する。
赤いローブの男が拳を引っ繰り返し、指を広げると炎はさらに大きなり、強く揺れた。火の操作も手慣れている。相当の使い手、ということだ。
「わかった。こいつだ」
舌打ちして、鍵を放った。
赤いローブの男は炎を消し、鍵を受け取った。
「出て行ってくれ。片づけがある」
エリオットはいった。赤いローブの男は何もいわずに立ち去った。
「鍵をやったのか?」
アンナがいった。「私の意見を無視したな」
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