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「こい」

 ベッドにいるローラの腕を掴んだ。

「やめてよ」と抵抗される。

「じゃ自分で外へ出ろ」

 ローラは黙って部屋を出る。エリオットも廊下を見た。階段を上がってくる足音がきこえた。

「アンナ、衛兵たちが来てるぞ」

 エリオットは扉を閉めたが、アンナが蹴破ったせいで施錠がかけられない。抑えてなくては開いてしまう。「クソ」

「フィギン、さっさと服を着ろ」とアンナ。

 フィギンは動揺しているのかズボンすらまもとに足が通せない。シャツはボタンが掛け違っている。

「アンナ、来るぞ」

 廊下のそこまで足音が聞こえる。怒鳴り声もした。自分たちに向けられたものだ。

「お前ら、そこを動くな」

 武装した衛兵が姿を現した。部屋へ入ってくる。

「エリオット、屈め」

 エリオットはしゃがむ。アンナは壁を蹴り、宙を舞い、その勢いのまま衛兵の横っ面に膝を見舞う。「まず一人」

 着地。

 エリオットは部屋の奥へ。アンナが入り口で二人目と対峙する。すぐに衛兵の手首を掴んで捻り折った。

「クソ」と衛兵。

「これで剣は抜けないな」

 顎に拳を打ちこむ。よこけた衛兵の喉輪を掴み、そのまま放り投げる。

「あと一人か」

 アンナが首を鳴らす。最後の一人は既に剣を抜いていた。

「少しは賢いみたいだな」とアンナ。

「お前らこんなことしてタダで済むと思うな」

 衛兵がいった。

「馬鹿が。来いよ」

 挑発。

 衛兵が突っ込んできた。アンナの脇腹に剣が突き刺さり、背中を貫通した。

「おい」とエリオットが叫ぶ。

 衛兵も全く避ける素振りのなかったアンナに戸惑っている。

「残念だな」

 アンナが笑う。まるで剣など突き刺さっていないかのような振る舞い。衛兵は理解が追いつかず、剣を手放しアンナから離れていく。

「待てよ」とアンナが腕を掴んだ。「これからだろう」

「離せぇぇ」

 衛兵が叫んだ。

「いやだといったら?」

 引き戻し、密着すると抱き上げ背骨を締め上げた。骨の砕ける音がして、最後の一人が倒れた。

「これで終わりだ」

 アンナが手を叩く。

「それよりあんた、どういうことだよ」

 剣が脇腹に貫通しているのに平然としているアンナにエリオットがいった。

「こういう体質なんだ」

 アンナは何かを詰まらせたように喉を鳴らしながら、剣を脇から抜く。

「痛いのか?」

「多少はな」

 赤く染まった剣を床に放る。

「傷は?」

「すぐ治る」とアンナ。

 いうとおりだった。もう出血をしていない。

「ちゃんと説明してくれよ」

 エリオットは立ち上がる。

「いずれな」とアンナはエリオットを見ずにいう。「おかわりが来る前に行くぞ」

「忙しいな、俺たちって」

「クソデブ、行くぞ」

 フィギンは腰を抜かし、震えている。「エリオット、クソデブを立たせろ」

「おいデブ、立て」

 腕を持ち、無理やり立たせる。「歩けるか?」

「歩けないなら死ぬぞ」

 アンナが続ける。「急げよ」

「つまり走れってことだ」

 エリオットが付け加える。

「これから拷問だ」とアンナがいった。「いいとこに連れて行ってやる」


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