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 二階の寝室に案内された。フランシスは火を灯してからベッドに横になる。白い目で天井を見つめ、手を腹の上で組んだ。

「阿片の仕事から手を引いたのは五年も前だった」とフランシス。

「家族や使用人はいないのか?」

 アンナが聞いた。

「家族は始末された。使用人もういない」

 始末という言葉の真意を聞くことはできなかった。「あとは死ぬだけの身だ」

「食事はどうしてる」

「一日一回、市庁舎の者が手配してくれる。私は大口の寄付をしているのでな」

「仕事の話をしようか」とアンナ。

「何を知りたい」

「ル=ゴフ商会について。阿片の密売をしている絨毯屋だ」

「俺が絨毯を仕入れました。マリアノフで店をやってます。絨毯の模様が地図になっていて、それを調べるとこの鍵が見つかりました」

 エリオットがサイドテーブルに鍵を置く。

 すぐにフランシスは手で払う動作をした。鍵を出しても見えないのだ。エリオットは鍵を戻した。

「ル=ゴフ商会については知ってる。ヴェトゥーラが関与している店だ。阿片を取り扱うために奴らが作った」

 フランシスは白い瞳で天井を見つめたまま、一度も瞬きをせずに語る。

「私たちが知りたいのはその先だよ」とアンナ。

「奴らが扱っている阿片がどこから来ているかは知っているか?」

「知らない」

「だったらそこへ行くといい。ここから北に行け。サウスタークとの国境沿いにサパンという村がある。行くにはサジ遺跡の裏にあるサジ川を辿れ。そこでル=ゴフ商会で扱う阿片はそこで栽培されている」

「やっぱり物知りだな」

 アンナがいった。

「私の村だった」

 フランシスが呟く。「あそこは私のものだった――」

「ちょっと待て。この鍵については?」とエリオット。

「阿片の密売は慎重にやらねばいけない。鍵は阿片を入れた箱か壷のものだろう」

「鍵と阿片を別々に運んでいるのか」

「昔から変わらないやり方だ」

「フランシス、ありがとう。謝礼だ」

 アンナがヘラー金貨を出した。

「置いとけ」

「じゃ、私たちはいく」

「火を消していってくれ」

 フランシスがいった。

「眩しいのか?」とアンナ。

 フランシスは何も答えなかった。かすかな呼吸だけが聞こえた。

 火を消してから屋敷を出た。


   ■


 アンナが新しい馬を調達するのに時間がいるということなので、その晩は街の外にある旅籠に泊まった。

 翌日、朝一番で馬を入手してサジ遺跡を目指して走ってきた。

「ここがサジ遺跡か」とエリオット。

 石造りの祠が三つ並んでいた。左の祠はほとんどが崩れていた。中心の祠の前には、オベリスクと呼ばれる石柱が立っていた。途中で折れており、全長を知ることは出来ない。全ての祠には蔦が茂っていて、奥には痩せ細った野犬の姿も見える。大陸に点在する遺跡のうちの一つだった。

「放置されてるってことは目ぼしい技術がなかったんだろうな」

 アンナがいった。

 遺跡は太古に大陸で栄えたというオベリスク文明が造ったもので、現在の技術を遥かに越える魔導具や画期的な魔導文法が発見されることがある。

「それか見つけられていないか」

 遺跡には隠し扉、隠し階段があり、そこからさらに地下や隠し部屋に通じるものもあった。

「どっちにしろ今は関係ない」

 アンナの言うとおりだった。

「これからどうなる?」とエリオット。

 遠くまで来た。サジ遺跡の裏に回りサジ川を見た。

「阿片村を抑えれば金になる。大金だ」

 アンナはいう。

「ヴェトゥーラの支配下にある村なんだろう」

「そこは才覚の見せ所だな」

「くすねるのか?」

「私は泥棒じゃない。あくまで私たちの商品はお前の鍵だ。それを売る」

「村の連中にか? 奴らに売ることにしたのかよ」

「村を抑えれば、そいつの上まで繋がるだろう。あとは鍵を買い取らせる」

「なるほどな。鍵だけじゃなく阿片村の秘密も売るのか」

「賢いな。口止め料とだけいうと人間なかなか金を払いづらい。まぁ鍵はきっかけみたいなもんだ」

「いくらになると思う?」

「分け前は期待するなよ」

 考えを先回りされた。

「黙ってるけど、どうしたんだ? エリオット」

「最低だよ」

 アンナの短い笑いが響く。

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