第29話 櫓大吾郎の少し不幸な一日 2
「
『
どうやら不安そうだが、送迎時に楽しそうにする者の方が少ないので、それはーーーいい、いい。
「ああ―――それが、心配か、怖いか」
「………いえ」
言葉少なな子だ。
しかし髪色は決して地味ではなく、活発な印象を受けた。
活発なのかもしれない―――本来は。
「新しい場所だ、もちろん不安はあるだろうが―――」
「カワイーじゃないですか、久しぶりに女の子が来て、
運転席の男がさらに割り込む。
「………連木」
「いいじゃないですか、櫓さん。水橋さん悪いね、失礼なのは承知だよん―――。ただ、最近はいつもこのオッサンといるわけだ、オレは―――わかるかい?だから、
だよん、と来たか連木よ。
流石に気持ち悪いと思う俺の感性はおかしいだろうか。
あと―――
「オッサンはやめろ」
「えぇー」
えーじゃない………あと、俺と
見た目が熊と狐だからそうは見えない、と以前言われたがな。
「家には―――君の御両親には、手紙による文面でも相談したが、君が実際に行くと聞いて、こちらも助かったよ」
「水橋さん、友達だって出来るさ、そんな顔しないで」
「友達は………いますけれど、こんなことになるなんて―――、なんて言えばいいか、皆に―――わからなくて私」
俺は黙って聞いていた。
この仕事についてからは、一度や二度ではない―――聞く。
聞くことがある。
特に珍しくもない話だった。
出会いと別れ。
俺もそれに一喜一憂することはある―――流石に慣れた気もするが、多く経験した気もするが。
だが聞いていて、でも聞いていて平気なわけでもない―――鈍感な俺でも思うところはある。
彼女も決して良い気分ではないだろう。
能力者は孤独だ。
ネオノイドは孤独だ。
少なくとも、今の社会においては―――学校においても。
極めて少数派。
もちろん優れた能力であるのだろう。
しかし優れた能力を持った少年少女は―――だから、そう、『上手くいく』とは限らない。
何が、とは言わないが。
何が上手くいくかは難しい---言葉にするのは。
関係、か。
色んな―――人生における、遭遇する色んなものに対処できるか。
対処できるだろうか。
上手くいかない理由は言語化しづらかったが、俺の、俺なりの経験で身についたことである。
能力者や、その両親、恋人や友人を見てきた。
俺はそろそろしゃべり過ぎているような気がしたが、何とはなしに、先程までの連木の軽薄な話題が染みついていて、それが嫌だった。
それを消し去りたい感情があった。
連木は今は前方を見て運転をしているようだ。
その調子で頼む。
「嘉内さんも、砂護くんも………」
か細く呟いた水橋李雨のそれを、名前だと気づくのに時間がかかった。
人の名前………。
その二人のことを………俺は知らん。
友達だろうか、あるいはもう少しで友達になれた者たちだろうか。
「ともだちね―――その中で―――君がネオノイドだと認知している者はいるかな、いる子は」
「………」
「いないのだね、そして君の御両親は人間だ、能力者じゃない」
「私のお母さんは――!」
「君は一人だ」
少女がこちらを素早く振り向く。
光っていない瞳で、睨む。
俺は言い過ぎたとは思わなかった。
俺はこの後、和解案を持ちかけるつもりだった。
君は一人だった―――これまではね。だが、我々の教団は構成信者の八割以上がネオノイドだ。
協光様も含め、温かく迎えてくれる―――。
という話を提案、展開するはずだった。
「私は、嘘つきですか卑怯ですか」
「―――そうではない、隠すことが―――」
「私は、可哀想なッ―――人ですか!」
車内に、少女の怒声が響いた。
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