第30話 櫓大吾郎の少し不幸な一日 3
ショウさんの車で道を走っていた。。
僕とショウさんで二人のドライブである。
ショウさんは運転が丁寧である。
それは彼の料理中の、ラーメン作りにも共通しているところだった。
そう言うところは、いい大人なんだけどなー。
話の内容がね。
「要するに積極的なものがまだ足りんのよ、砂護くんは」
「だからショウさん、冷やかさないでくださいよ、なぁんですぐ付き合うって話に持っていくんですか」
名前も教えていない、不登校の女子の話をショウさんは広げた。
いや途中で、他のクラスに好きな子をはいないのか、というような話をしてきた。
「別に冷やかしはしねえよ、だから砂護くん、冷やかさねえよ、俺は火属性だから冷えるわけねーだろ、いつだって熱いんだよ、恋に関して」
「な、なんすかそれ」
だがしかし、僕の困惑もさておいてだ―――彼は話を続ける。
燃えるような恋をしたいんだ俺は、悪いことは言わないから高校生のうちに積極的にやっておけ後悔する、というようなことを熱弁した。
火属性能力者の熱弁は、
この人、基礎体温とか高いのかなぁ。
なんか恥ずかしさも相まって、顔の表面が暑い。
いつもこんな盛り上がり方をしているのかなあ、この人。
「人を愛することは素敵なことなんだぞ、若き少年―――砂護くんよ」
大仰な、芝居がかった口調になったショウさん。
ステージの上でしかしないような、妙なアクセントで言う。
まあ、ああはい―――わかりましたけど、なんだかなあ。
何なんだよこの人。
「―――じゃあショウさん、彼女いたんすか」
高校生の時にどうだったのか、と。
僕が特に深い考えもなくそう返すと、ショウさんは沈黙した。
非常に長く沈黙をした。
車の走行音だけが世界に響いた。
「いなかったんですね!いなかったんだ、じゃあなんで作れっていうんですか彼女」
僕は抗議した。
車内で抗議した。
「うるせぇ、お前アレだよ!いいんだよ俺は!俺はいいんだよ」
「いや、俺はいいんだよって、いや、アンタ言ってることがおかしいっていうかっ」
「俺の経験を踏まえてだ、若い少年にアドバイスを―――」
アドバイスとか、いうよりは、なんか命令みたいに聞こえたんスけど?
「運転中だ、前見て走ろーっと」
「ああっズルい!」
逃げやがった、この人。
言いたいだけ言いやがって。
好きなだけ僕をいじってから逃げる大人め。
いや逃がさんよ、ズルい大人―――このズルい
「前見て走る、前見て走る―ー」
ぶつぶつと歌うようになったショウさんの車は軽快に走っていく。
「おう、なんか、真っ黒な
ぼつりと、ショウさんが言うので顔をそちらに向ける。
「そんなの、どうだっていいでしょうに………」
「黒い車って、夏は暑そうだよなァ」
「いやあ、ショウさんなら普通でしょー」
ショウさんがまだ少し笑うなか、僕は、すこしばかり目立つ映像を前にして、目を奪われる。
僕等は、黒塗りの車とすれ違う。
なにかを大声でしゃべって頭と肩を揺らしている、同い年くらいの女子がいた。
内容がこちらの車内まで聞こえるはずはないが。
水橋李雨。
それは水橋李雨だった。
―――見間違え、では―――ない。
最近会ったばかりだから二人で話しもしたから、間違えることはない―――
そして何かの団体の制服を着た、男が二人。
車というのはそうそう内部を見れないようにややスモークがかかっているのが普通だが、なんとなく、見てしまう。
「………」
僕は、砂護野晴は、すれ違う。
その黒い車が遠ざかっていく―――対向車線を走って行って。
ショウさんの歌が意識外にまだ聞こえていた。
僕は、なにか違和感を、引っ掛かりを覚えた。
水橋さん―――あれは水橋李雨―――だよな?
最近会って話したばかりだから見間違えはない。
何かに怒っているような雰囲気で、男に向かって叫んでいた。
それと、どうも男二人の方は家族には、見えなかった。
黒塗りの車―――。
黒塗りの車?
あの家庭では。
シルバーの車から降りて着て挨拶をした、礼儀正しい父親。
車庫にあったワインレッドの車を思い出す。
先日の、水橋宅の―――二台の車。
シルバーとレッド………シルバーとワインレッド?
「―――ショウさん」
数秒後、僕はぽつりと、口に出し始めた。
口に出し始めてから、それはさらに加速した―――何かいやな予感がした。
いやな予感が加速した。
「え、なに砂護くん、もしかしてさっきの
ショウさんは、僕の方を向いて困惑する。
きょろきょろと、首をまわし始めた。
「ショウさん、今の車を追いかけて、………はやく」
「え―――、何が………え?車が?」
首をキョロキョロと動かしている場合じゃあないぞ。
馬鹿な話は終了だ、ずるい大人よ。
「早くバック!
車が急旋回する。
ひゃひゃひゃひゃ―――、と。
タイヤが摩擦で甲高く鳴いた。
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