第44話 ゲームしてるだけ 2



「違うんだって」


僕は話が面倒臭い方向に行くのを、面倒臭いなあという表情でごまかしていた。

はい、ごまかせていません。

でも会話は続けて来る三人。


「砂護、お前さ………嘉内夕陽だけでなく―――水橋さんまで、そうなのか?そっちも行くのか?嘉内夕陽じゃあ、無かったのか?」


「………」


「春先からあの女子と付き合っているんだろう、砂護―――」


嘉内と僕が付き合っているのかもしれないという話であった。

………まあ行動を共にしているシーンがあるように見えるのかもしれん。

そういうように見えるらしいからこいつらはこんなに好奇の視線で見てくるわけだ。

しかし僕は君たちが思っているような、そんな明るい話に向き合ってばかりではありません。

残念なことにね―――。



――――――――――――――――――――――――――――


宇宙空間。


画面では、僕の歴史機体ヒストリガンが、敵をビームで撃ちまくっているのだが、相手の機体は宇宙空間を高速で移動し、当たらない。

この野郎、僕ばかり狙ってきた

和南が―――【シン・ワナミ中佐】が、ビームレーザーを連続で撃ってくる。


【ノハラ・サゴ大尉】「だから言っているだろう!付き合ってないんだってェ―――っ!」


僕は否定しながら、ビームをかいくぐり、【ヒガシオ中尉】の機体にサーベルを突き立てた。

宇宙空間で火花を散らし、回転して飛んでいく【ヒガシオ中尉】のブルーの機体。


【シン・ワナミ中佐】「そろそろ素直に認めたらどうなんだ、嘉内側から、嘉内の方から話しかけることもあるよな―――なんなのだ?」


【ノハラ・サゴ大尉】「そんなに悪いことかよ」


【ヒガシオ中尉】「悪いこともある」


「例えば?」


【ヒガシオ中尉】「例えばそう―――そのう、二股ふたまたをかけているなど、とか………」


僕は頭が痛くなる。

いったい僕が何をしたっていうんだ。

二股だって?

ばかばかしい、馬鹿も休み休み言いなさい。

付き合ってすらいないのに。


それを言い出したら三つも四つも、色んな人に春から振り回されているだけなんだが、いろんな人たちに―――男もいるし女もいるよ。

もちろんそれで僕が起こした行動もあるがな。

僕がちゃんと自発的にやっていることは実は少ないんだけど。


【ヒガシオ中尉】がビームを撃ちながら接近してくる―――狙いは僕である。

ミサイルならビームよりは遅いので、なんとかシールドで防御する。

着弾したのはシールドである、防御が間に合った。


【ノハラ・サゴ大尉】「だから言っているだろう、水橋李雨の訪問、同伴しただけだ」


まあ能力者がらみだとまでは言わない。


嘉内が警察の調査とは関係なく、以前からネオノイド関連のことを調べたりしているらしかったが。

僕もそれは詳しく知るところではない。

ただ―――僕との出会いの以前から、という事は確定である。


【ノハラ・サゴ大尉】「あいつは全然そんな事ねーし?―――そうだな、委員会とかで仲良くなったんだよ。僕がだ、美人あんなのと付き合えるわけねーだろう」


【シン・ワナミ中佐】「どうだか?」


【ヒガシオ中尉】「「せませんな、まったく」


【ノース・キタカス大佐】「リアじゅう、滅ぼすべし―――滅ぼす方向で行きましょう―――全会一致の判決です!」


三人の操る機体が、編隊を組んで突っ込んでくる。

三種類の機体がそれぞれかわるがわる、攻撃を仕掛けてくる。

僕は躱すので手いっぱいだ。

そして、それぞれが互いの隙をカバーするようなチームプレイである。

おのれ、スキがない………。


すごく粘着質な攻撃だ。

僕はビームライフルを撃ちながら、後退、やや押され気味である。

それは僕を防戦一方にさせるほど、スキのない攻撃であった。


【ノハラ・サゴ大尉】「エースパイロットとして名を轟かせているこの僕を、これほどまで―――追い詰めるか!」


それは、纏わりついてくるような、粘着質なもので――――本当に面倒だった。

こいつらたぶんモテないだろうなあ―――と僕に思わせるに足る、すごく面倒臭い攻撃だった。

ノハラ大尉、ピンチ。


チームプレイが―――全国大会出場を夢見る熱血運動部も顔負けのチームプレイを、なぜか発揮し、僕を追撃する。

何故こんなところでそういった才能を発揮するのだ。

それをもっと別の分野で発揮できないのかな、こいつら。

そうしてそうやって、ノハラ・サゴ大尉は回避が忙しくなる。

攻撃できない―。


【ヒガシオ中尉】「ていうか、砂護よ―――あっ違う―――ノハラ・サゴ大尉よ!貴様は嘉内夕陽を、美人だと認めるんだな?」


鉄球ハンマーを投げながら、ヒガシオ中尉は言う

投げるごとに引き戻す、射程は短い武器だが、威力はかなり高い。


【ノハラ・サゴ大尉】「………まあね」


実際、初対面の頃は、少し身構えた。

初めは、最初はホームルーム。

座っている横顔を見て、これは………と思った。

何日かして、休み時間になったときだった。

ふと、廊下を真正面を歩いて来る彼女を見て、僕は息を呑んだ。


これは本物だ、と思った。

本物。

本物、とその時なぜか、思った。

美人、美少女ではなく。

可愛いいキレイではなく

本物、と。


ドラマ見てたら、そのまま画面から飛び出してきちまったよ、本物が。

というような。


僕という人間は、女子がちょっと可愛いくらいでは揺らがない硬派な………おとこの心をもっているつもりだった。

可愛いくらいがなんだ。

能力的にも硬派だけれど。

硬めだけれど。

地属性で、がりがり、じゃりじゃりとした硬度を持ったものだけれど。

むしろ、さぁてどうケチをつけてやろうかな―――どうせ可愛いだけの女だろう、と変に強がって生きていた。


クラス男子の一部は顔を見合わせながら、告れよ、いやいやァお前行けよ、と挙動不審に顔を紅潮させ、肘で互いを弱く突っついていた。


それを見てようやく我に返った僕。

―――落ち着け、僕と。

冷静になれ、なりましょう。


浮かれるな、女子が可愛くても簡単には付き合えるわけもなかろう、そしてそれが通常なのだ、日常なのだ。僕は校内では通常の人間でいようと志しているじゃあないか。


いやいや、そもそもそれ以前に僕には修業がある。

自分を鍛えるのである。


まぁ―――とにかく、仲良くなれたらいいな、と思ったのだ。

仮にも普通の男子高校生として入学してきて、

男子高校生をやっている僕の、女子に対するそんな考えを、誰が責められよう。

………責めないでねー?


【ノハラ・サゴ大尉】「だからこそ、まぁなんていうか、がっかりじゃないけどよ、困ってるんだよ僕は」


普通に可愛いのに。


【ノハラ・サゴ大尉】「だから嘉内には素直に彼氏カレシでも作ってもらって、だ―――、大人しくしてくれればいいのに」


三人の機体に立て続けに攻撃され、撃墜される。


【ノース・キタカス大佐】【シン・ワナミ中佐】【ヒガシオ中尉】「「「だからお前が彼氏カレシなんだろ!」」」


総ツッコミである。


うるさいな、なんだよこいつら!

まずお前らが作れよ彼女。

あれ、なんかこの発言に既視感、というか既聴感が………?

この話って前もしたっけか―――?

こんないたいけな男子高校生を三人がかりで攻めやがって。


【ノース・キタカス大佐】「それと水橋さんとも話しているではないか」


言いながらビームライフルを撃ってくるな。


【ヒガシオ中尉】「それか、つまりその―――二股ふたまたというやつですな!それは」


言いながら―――またそういう話にする―――戻す。

こいつらはビームライフルを連射してくる。


【ヒガシオ中尉】「水橋と嘉内、どっちがいいんだよ」


【ノハラ・サゴ大尉】「だから、水橋さんの家にはプリント届けに行って、ちょっとあいさつしただけだって、それで委員長と並んで歩く羽目になったけどなー」


まあ、そのほかは事件捜査が主な行動なので、警部にとっての新入りのほら、巡査とか………もっと言えば、部活の後輩くらいの役割かもしれないがね。

悲しいとも思わん、色恋沙汰ではないのだ。

むしろ慣れないことをやって疲れたという気しかしないよ僕は。


【ノハラ・サゴ大尉】「そして―――まぁそんなもんだろうよ、高校生なんて」


砂護野晴の日常なんて。






【ノハラ・サゴ大尉】「心配すんなよ、僕は結構好きなんだぜ」


エネルギー武器をリロードしながら言う。

結構好き―――今の時間が、結構好き。


【ノハラ・サゴ大尉】「女と付き合うよりも―――お前らと遊んでいる時の方が楽しいからさ………」


その場の空気が、少し変わった。

なんとなく、三人の表情が、照れな感じに変わった。

どこからともなく笑みがこぼれて、顔を見合わせる。


隙があったので、隙が生まれたので、戦ってみることにした。

ノハラ・サゴ大尉のベートーベンジャミンが、ビームサーベルで敵を切った。


ワナミの機体の耐久値がゼロになり、バチバチと火花を散らし、爆発する。

撃破した。


【シン・ワナミ中佐】「ぎゃあああああああああ――――ッ!」


【ヒガシオ中尉】「ワナミィ――――――!」


ワナミの機体が爆発し、宇宙空間を漂う塵と化した際に、ヒガシオ中尉が叫ぶ―――僕は手を休めず、固有ヒストリックスキル『デスティニーターボ』を発動させる。

ゲージを消費して、急激にスピードを上げる重装機体。

音速を超える移動により、残像が発生しつつ、別の機体に向かっていく。


【ヒガシオ中尉】「えっ!」


レーダーに反応、アテンションブザーが鳴る。

一気に移動して【ヒガシオ中尉】の歴史機体をビームサーベルで一閃すると、機体の耐久がゼロを切り、バチバチバチ………と火花が散った。

火花に包まれていく。


【ヒガシオ中尉】「ぎゃああああああああああああああ―――ッ!」


バコォォォン!

大爆発だ。



【ノース・キタカス大佐】「好き勝手しやがって!裏切り者の彼女持ちがァ―――ッ!」


大口径ビームキャノンを放つノース・キタカス大佐―――宇宙空間に、悲しい男の叫びがこだまする。

なんとはなしに哀れな気持ちになるよ、いや僕は彼女いないんだけどね。

そう、しかも僕、彼女いないんだよ。

ここまで抗議されて、攻撃されておきながら。

信じがたいことに僕には彼女がいないのである。

もう何をどうすればいいかわからず、僕は言いようのない悲しみを覚えるよ。


悲しいなぁー。

どうしてこの宇宙そらはこんなにも悲しいのかしらね。

不思議だね。


【ノハラ・サゴ大尉】「だから彼女いないって言ってるだろうがァ―――――ッ!」


ビームキャノンを、間一髪で避ける。

そこまで機体に接近したところでターボが切れ、ミサイルを撃って攻めた。

誘導ミサイルは、これも外れる。

接近して当てるしかない。


【ノハラ・サゴ大尉】「これでトドメだァ―――――ッ!」


【ノース・キタカス大佐】「オオオォ―――――――ッ!」




ノース・キタカス大佐の駆るナポレオンマックスのビームサーベルが、ノハラ・サゴ大尉の機体ベートーベンジャミンの真ん中を貫き、一瞬遅れてミサイルがノース・キタカス大佐に命中する。


爆発、爆発。

爆発の二重奏。

双方の機体の耐久値がゼロとなる―――

相打ちである。




「ぐあー惜しかったな、ワンターンでスリーキルだ―――ははは、まあこんなもんか」


僕はひと息つく。


「ちいい!油断しただけだ、今の卑怯だ」


「実に卑怯だなお前は、うん。まさにゴミだ」


「お前らって、本当になんかもう………」


本当になんなんだろうね。

まあそんな僕たちの休日である。

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