第45話 一学期の終わり



夕暮れ。

高校の敷地内、閉鎖されたプールの前。

嘉内夕陽と水橋李雨は、いた。

今回は僕が呼び出したのだ。


「なによ、どうしたのこんなところに呼び出して」


と嘉内夕陽は言う。

委員長、そのこんなところで遊んでたのはお前なんだけど、まあそれも今日で終わりにするとしよう。


「調査任務よ、遊んでなどいないわ」


「水泳部を嗅ぎまわるのも、やるなよ―――どうせ業者が治す予定だったんだから」


「私が嗅ぎまわるのはネオノイド関連だけよ、その過程で水泳部に聞き込みに行くことはあったけれど」


あったのかよ。

本当に―――野次馬というかなんというか。


「水橋も迷惑だったろうに―――いや、まあとにかく―――入るぞ」


「入るって」


敷地の中に入っていく。

フェンスも破損しているのでそこをくぐることは、時間をかければ可能だった。


「壊れているんだよな、プール。もう水を入れられない」


水色の塗料が剝がれ、底がひび割れたプールの前で、僕はそれを見つめる。


「ええ、そうよ―――なんで今更?」


「修理はいつだって?」


「先生によると数か月はかかるそうだけれど―――残念ね、夏の間、使えないかもしれないわ」


「そりゃあ困るな」


そこがひび割れている。

プールの容器の部分は、その基礎はコンクリートだった。


「困るから―――直した方がいいな」


僕は能力光ネオンを発動させる。

黄金色の目。


粉々の破片を崩して、視線で整え始める―――。

難しいことではない、僕は地属性能力者だ。

崩すことができるなら組み立てることも―――やや神経を使うができるはずだ。

穴を埋めていく。


砂塵が緩やかにプールの底で渦を巻く。

瓦礫の破片を、視線で押して、どかす。


童心に還ることすらある。

砂場で砂を使って城を作ったことは、あの頃は自分が能力者でも何でもない、ただの子供だったはずである。







「―――細かい仕上げはまあ、修理する人に任せるとして―――これでこの夏は普通に部活動で使えるだろう?水橋さん」


確かに見た目は灰色で、コンクリートの色で、学校プールの底面としては些か味気ない。

ちゃんと業者に仕上げを委託すべきだろう。


「え………?ええ、うん」


声をかけると―――信じられないという風に、僕の顔を見る彼女。

そこには、笑みが確かにあった。

居場所が元通りになった、回復したという喜びと―――それと、心配、困惑。

困った顔。

彼女は久しぶりに不安そうだった―――。

ああ、わかってる、あっさりとクラスメイトに能力者である証拠を見せてしまったこと、それが不安なのだ。

この先の色々なリスク。


リスク、心配、怯え、周りからの―――目。


「これでもう、水泳部は大丈夫なんだな、水橋さん?」


「えっ………そうだよ、そうだけれど」


でもいいの、嘉内夕陽にバレても、と言う心配はされた。

当の委員長は、黙り込んでいた。


「ああ―――それと嘉内委員長、おもにお前に話したいんだけど」


「―――へえっ!」


甲高い、新種の鳥のような鳴き声を上げて、僕を見る委員長。

見る目が変わったのか、緊張している。

まあ見る目っていうか、目が光ったのは僕の方なのだがな。


「僕はネオノイドだ。そしてそれを――――言わないで欲しい。僕は今のように―――」


直した場所を見やる。

流石に塗料は剥げたままだが。


「今のように、良い使い方をしたい。だからそっとしておいてくれ、僕やほかの―――仲間のネオノイドを」


この時、流石に水橋の方は見なかった。

彼女まで一緒くたに巻き込むのはどうだろう。

巻き込みでばらされたらいやだよなあ。


「ええ、いいけれど―――いいわ、内緒にしてあげる」


「でももっと見せてくれない?もっと―――そのう、出来るんでしょう?」


そんな目で見るな。

まあ人目につかないところでなら、二人きりでならそれもありだろう。


「僕は、言おうと思っていたけれど、嘉内、静かに日常を送らせてくれ。僕を違ったモノ扱いしないでおくれ」


「違うわ、本当に『すごい』と思っていて、そういう―――力を使っていくべきで、世の中に知らしめるの」


だって、格好いいじゃない!

と言われる。


僕の感情は―――女子にそんなことを言われたら絶対にほころんでしまうのが男子だった。

悪口ばっか言っている女子がニガテだった。

そのはずだが。


ファミレスでお前と話した時から、僕はどうも好きになれなかった。

すべてではない、彼女のすべてを嫌いではない。

でも彼女は色々と勘違いをしている。

と、感じる―――好奇の視線で見ているだけ。

ネオノイドの話をする彼女は、そこに本当の好意しかないのだろう。

彼女は実に楽しそうに話す。


彼女はそれを、まるで遊園地か何かのように―――話す。

その何とも言い難い感覚は、僕にはわからなくなった。

だって、格好いいじゃない―――?

そうは思えない。

僕にはそうは思えない。

水橋李雨の件があってからは、あの件に触れてからは、僕はとてもそう思えない。

そんな―――明るい、エンターテイメントではないんだな。

ヒーローでもない。

人間に近い―――弱い、あまり面白くもない、ひょっとすれば地味な、ものだ。

そういう問題だ。


「ねえ砂護―――くん!これからどうするの?その能力を使って、世界を救うの?」


「ううん―――ああ、その発想はなかったな」


「それじゃあ何、何をするの、能力を悪用する、悪い奴らを倒しに行くんでしょう?」


「ああ―――家に帰って期末試験の勉強をしないといけない、そうしないと親がキレるんだ。それで、夏休みに入ったらゲームする。もう少しレベルあげなきゃ東尾達に勝てないからな」


「ふざけないで!そんなの普通の人間だってできるわ」


「普通のにんげ………男子でいいだろうが、何がどうおかしいんだよ!」


別にふざけているつもりもない。

ふざけるのは好きだけどな!


「違うのよ、そう、もったいないじゃない!本当に―――ねえ!」


彼女は睨んでいた。

息を荒げて。

マジギレである―――。 

普通の女子よりも目力めぢからが強いんだよなあ、これが。

クラスメイトの普通よりも。

怖いよ―――、怖いのと、それとあと、不思議なんだけど。

そこまで本気になる要素あったか?

本気で怒る要素があったのかという疑問が、つい顔に出た僕。

彼女は―――


「ネオノイドは―――私が見つけた唯一、一つの―――生きがい。なのに」


「………」


そこまでか。

まさかそこまでの感情だとはつゆ知らずだ。

僕は流石に笑ってしまう。

笑い始めた。

彼女のこれまでの人生に何があったのか、僕があずかり知るところではないが。

たまらず笑いだしたのは、水橋もだった。


そこでなんだか、お開きになった。


「この力を使って、地道に―――修行を」


ギミーさんのことを、そういう大人がいるという事は、嘉内には言ってあるが、嘉内は浅くしか知らない。

僕の知り合いのおじさん、程度の知識だ。

だからこれも言わない。


「いや、頑張るさ―――この力があるから、出来ることがある」


僕はこれから出来ることがある―――。

言いながら僕は、あの時を思い出した。

河原で、水橋の能力で、助けてもらった時。

溺れないで済んだ時。

ここで水橋を見て、あの時の言葉を繰り返そうかとも思ったが、水属性能力者の正体を嘉内に教えるところまでは、しないほうがいいだろう。

僕だけで十分だ。

ただ―――言えること。


「この能力は危ないかもしれないし、よく思わないやつもいるかもしれないし、悪目立ちする―――だから間違えないように使おうとは思ってる」


能力の修行も、またしようと思っている。

ギミーさんとはぎくしゃくしないように色々と考えなければならないが。


そんなわけで。

特にこれ以降は、何事もなく一学期が終了していく。

波乱に満ちたりもしたりしたが、終わりよければ―――というやつである。

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