第43話 ゲームしてるだけ 1
さて、それからというものの僕は、ネオノイド研究の第一人者(?)であるところのギミーさんのマンションに向かうことはしなかった。
もっとも、そこへ行くことは法律によって義務付けられた何かであるという事はなかった。
行きづらくなったというのもあるが、平日や休日は東尾の家でゲームしていたりすることが増えた。
集まって遊んでいるだけ。
その機会が増えた―――だろうか、いやそれほど増えてもいないだろうか。
ギミーさんのマンションに行かなくなった僕。
別に彼は―――二度と来るな、までは言わなかったものの、僕は行かなくなった。
ギミーさんと言い争いをしたという事が原因―――なのだと思う、否定できない。
そもそも水橋は教団に連れていかれる最中であり、誘拐されていると思ったのは僕の早とちりなのだ、と彼女自身から説明はされたものの―――本当なのか疑わしい。
僕の勘違いがその発端だといわれると、反発したくなる。
あの日、あの黒塗りの車を見て、誘拐でなかったといわれてもそう簡単に納得できるものではない。
どう見たって彼女と男たちは言い争っていた。
確かに証拠は何もない―――僕が見たと精いっぱい叫んでいるだけ。
だが、わざわざ嘘はつかないよ。
話の流れで考えるならギミーさんとの不仲、そうなるのだろうが、もっと現実的な問題があった。
六月は終わりが見えてきた。
つまり二学期の終わりも近いのだが、その前に、期末試験が控えている。
学校のテストである。
約二週間後の話である。
そろそろ色々と忘れかけてしまうっていうか現実離れしたあれこれもあったの、僕は高校二年生なんだ。
いや、本当にそうなんだよ。
勉強は少しずつしているよ。
決してやっていなかったわけではない。
ええ、僕だって高校生ですからね。
やっていなかったわけではないが、春からは人間をやめたり修行に打ち込んだりしてすったもんだの右往左往していたから、色々とおろそかになっている節がある。
二年生は中だるみの時期だぞ、入学の時より気を抜きやすいんだ、と柿本先生は言っていた。
気を引き締めろという激励の御言葉だ。
ああはい、頑張りますよ。
頭ではわかっています。
休み時間に教科書やノートを取り出すその合い間に、目に入る光景がある。
嘉内夕陽と、水橋李雨だ。
二人は窓から差し込む光を受けて、輝いて見える。
数瞬、見惚れてしまう。
話している女子二人に―――。
そう、普通の女子二人、と言った風で、意外と仲良くなっているのかもしれない。
心配していたクラスメイトもいるようだがいたようだが、「ちょっと体調を崩して」と言って、それで受け入れられているようだ。
元々、友達がいない女子というわけでもなかったのだろう、なんにせよ日常に戻ったらしい。
そう、水橋李雨が登校するようになった。
進展だろう。
軽く流せる事態ではない、これでやっと一件落着か―――と思うが、僕は考えていたことがある。
僕は、やるべきことがまだあるのではないかと思う―――。
水橋李雨は、彼女と話すと―――ネオノイドについて考えさせられることがある。
彼女はネオノイドのことを、良く思っていない。
いや、自分の能力のことを、よく思っていない。
まるで病気にかかったようだと、言った。
それは大きな間違いだとは思うが、身体の異変、という点では同じなのかもしれなかった。
彼女はネオノイドに、なりたくてなったわけではない―――なりたくてなれるものでもないが。
世間の風評、ネオノイドを社会が上手く受け入れていない部分もある。
そういえばニュースでは法の整備が追い付いていないとも言っていた。
この日本は―――日本以外にも、社会はネオノイドをどうすればいいかわからず、持て余している。
僕は馬鹿な男子なので、そういう感性がないので、この能力でヒーローになりたいな、何で毎日地味に、修行ばかりなんだよギミーさん―――という風に思ってしまうのだが。
ああ、もちろん抑えているし。
ハタガミ君はもっとその
正直言って、水橋さんのその、よく思っていないという、感覚が理解できない。
だが強いて、なんとなく理由をつけてしまうとすれば、彼女が女子なのだから、という事なのだろう。
男子ではなく女子だから。
僕は差別のつもりはないが、男女に考え方の違いはあると思う。
それと―――水泳部の事か。
これも彼女を語るうえで欠かすことの出来ない要素なのだろう、僕は全く知らない彼女の積み重ねた日々。
ネオノイドになったことは、水泳に打ち込んでいた彼女にとって、マイナスでしかないのか?
僕は部活動に属していないから―――もう、特に愛着もないから、やはりわからないが。
水泳部の部員―――友人ともつながりがあるのだろうし。
人間関係がある、そこに支障をきたす恐れはあるかもしれない。
実は自分は普通の人間ではありません、と言われたら、そりゃあ同級生は困惑はすると思う。
彼女は、水泳が好きだった。
そして能力者のことを好きになれなかった。
ネオノイドが普通の顔をして部活動に顔を出してはいけない―――のだろうか。
僕はそうは思えないし、帰宅部だから考えたこともなかった。
能力光を光らせなければ、その身体能力は常人と同じ、普通だから平等だと思うのだが。
しかしすべてはあくまで、僕の想像の中で。
僕は
知っているのはせいぜい、とある日の下着の色くらいだった。
あれはいいものだった―――うむ。
とにもかくにも、今日遊んだらしばらくは学業かなと思う。
僕だって高校生。
勉強しなければならないんだなあ。
今日遊んだら。
うん、今日は遊ぼう。
――――――――――――――――――
その日の放課後。
僕は東尾、
カチカチ、という音のみが室内に響くが、戦場では凄まじい戦闘が繰り広げられている。
鋼鉄の機体が黒い空間を奔っていく。
そこは広大な戦場だった。
僕が育てたキャラクター、【ノハラ・サゴ大尉】が、高火力型機体の『ベートーベンジャミン』を操縦し、宇宙空間内を駆ける。
青白いブースターを吹かして、駆け巡る。
画面上では、宇宙空間での目まぐるしい戦闘が続いていた。
真っ黒な宇宙空間のステージ。
背景には、静かに輝く火星がたたずんでいる。
【ノハラ・サゴ大尉】はパイロットスーツに身を包み、ヘルメットを装着しながら、叫ぶ。
【ノハラ・サゴ大尉】 「これ終わったらもう
言って、機体胸部のビームを二発、三発連射する。
東尾の機体がそれを躱す。
あっちがう、ヒガシオ中尉ね。
【ヒガシオ中尉】「今は戦いの
ビームライフルで数発、撃ち返しながら、芝居がかった口調で返してくる。
これらはすべて宇宙空間内での戦闘であり、僕等はパイロットなので、いつもとは違った、やや高いテンションで会話をすることとなる。
そこのところ、ご了承願いたい。
【シン・ワナミ中佐】「そこだァ!」
赤いビーム砲が飛んでくるのを、僕は躱した。
ブースターを吹かせて体勢を作っていく。
反撃に移る機会を、増やす試み。
シン・ワナミ中佐の駆る機体、ワシントンイーグルは翼型のユニットを装着した高速機体だ。
【ノース・キタカス大佐】「ところでサゴよ、アレはどうなってるんだね?」
【ノハラ・サゴ大尉】「アレとは何だァ!」
ビームライフルを撃ちながらテンション高めで聞き返す。
テンション高めで行きたかったが。
【ヒガシオ中尉】「嘉内とはうまくいっているのか?」
【ノハラ・サゴ大尉】「………」
それだけではない―――と敵のパイロットが付け足す。
【ヒガシオ中尉】「水橋さんのところには?」
【ノハラ・サゴ大尉】「ああ?ああ、話したけれど?」
【ヒガシオ中尉】「お前言っていたよな、家にまで行ったんだろう、彼女の家にまでェ――――ッ!」
【ノハラ・サゴ大尉】「………行かされただけだって―――先生にあ―――
ビームライフルを受け、ノハラ・サゴ大尉の機体は耐久値がゼロになり、爆発する。
直ぐに新しい機体で復帰してくる。
ブースターを激しく吹かせる。
【ノハラ・サゴ大尉】「くそお―――!英語とか数学のプリントを届けに行ったんだ!それだけなんだよ!」
宇宙空間で巨大な機体を駆使してブースターを吹かしながら言うセリフか、これが。
――――――――――――――――――――
女子の家に行く。
それなりに話題になる。なり得る。
一般的な男子高校生にとっては重かった。
重かったのかもしれない。
特に奥ゆかしき、積極性に欠けている日本男児にとって。
ああ、もう。
女子の家に行く。
それはこいつら等にとって、首相官邸あるいはホワイトハウスに行き、そこで一番偉い人と握手して楽しく会談してきたのだ、ぐらいの難易度があるのだ。
「………先生に頼まれてな」
「それで」
「それで―――?それだけだったよ。まあ、ああ普通だよ」
「まあ普通―――?お前さぁ」
そりゃあねえだろう、という和南。
そりゃああるんだよ、と言い返す僕。
画面内ではビームサーベル同士で剣戟を交わす機体があった。
宇宙空間をバックに、バチバチと、ビーム光を弾かせる激しい
カラフルなビーム光が黒い空間で瞬きを重ねる。
こんな
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