第20話 嘉内夕陽という女 2


それから少し経ったゴールデンウィークの………あれは四月末ごろ。

僕は能力者になった。

ネオノイドになった。

というか自分は能力者だということを知った、気づいた、自覚した。

そしてギミーさんと出会った。


場所は高校の教室やその他からではない―――。

倒壊したマンションの、一階である。


「また連絡するといいよ。自分のコントロールについて、何か力になれるかもしれない」


彼はそう言う。

瓦礫の上で、僕を見下ろすような位置関係で。


「力になったことは一度や二度ではないんでね………」


「な、何を―――言って」


当時、ギミーさんと僕は友好関係がなかった。


修行するされる、今のように師弟関係などという関係はない。

彼はそう―――よくわからないひと。

男子高校生の前に突然現れて、意味ありげなことを言う、見知らぬ大人だった。

そのうえ、どこかいつも余裕を持った笑いを浮かべているものだから、あの当時は苛立ったものだ。

あの当時は。

………いや、今もたまにイライラするけど。


そして、あの日もどこか笑いかけた、微笑んだ表情で、僕を馬鹿にしている、あるいはからかっているとも取れる―――表情で。


「では、今日はこれで」


そういった。

立ち去ろうとした。

あれだけのことをしておいて。


「ちょっ、とアンタ!待ってくれ―――なんなんだ、そもそも………」


声による制止も意味をなさず、ギミーさんは去り、僕は崩壊した建物の中に、残された。


追いかけようとしたが、崩壊した現場を、見まわした。

倒壊したマンションの一階にいた。

と言っても、二階、三階、四階といった、上は―――大きく損壊してなくなっていたが。


ばたり、とその場に倒れる。

寝っ転がる。

息が切れていた―――体力が消耗したのもあった。

瞳の『能力光』ネオンも消えている―――。

使おうと思えば能力を使い、ギミーと名乗るあの不審者、そう不審者に届いたかもしれない。

だがこれ以上集中力が持ちそうもなかった。


「………なんだよ、ギミーって、勝手すぎるだろアイツ―――僕が人間じゃないとか、なんとか―――」


その日は色々なことがあった。

厳密には、その数日前からではあるのだが―――。

混乱の渦中にある僕は、色々と頭がオーバーな感じになっていった。

能力者になった下りについて、色々と話しや関わる人物がいるので説明を割愛しなければならないが………

まあ僕とギミーさんのその日のやり取りは、ここでは語らない。


語るのは。


「―――はあっ、はあっ」


その時飛び込んできた彼女のことである。

息を切らして崩壊した建物に飛び込んできた、女子生徒。


「うわっ、怪我人!砂護くん!同じクラスの砂護野晴くんじゃない、どうしたの?」



―――何時いつからかはわからないし、もしかすれば生まれた頃からかもしれないけれど、僕は他人の名前を記憶するのがひどく苦手だった。

クラスメイトの名前を覚えるのが、ひどく苦手だった。


嘉内夕陽はどうやら、僕とは違ったタイプらしかった。

覚えてんだな。

ふうん………?

僕が彼女の見た目ではなく、なんだ―――中身を知っていくのはこの辺りからである。

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