第19話 嘉内夕陽という女 1
嘉内夕陽という、二年四組、同じクラスの女子について、説明をしようと思う。
あの委員長、あの女子生徒。
説明をしようというか、説明をした方がいい。
僕がただ単に普通の高校生で、男友達とゲームマンガだけをやっている―――先程のようにしている、それだけの男子ではなく、女子との付き合いもやっているんだぞということをアピールし、自慢し、プライド、尊大な自尊心を守るためにも。
………いや、そうでなく。
説明しなければ。
何故なら僕と彼女の関係は、ひどく複雑だからである。
複雑だったらわかりやすくしてみよう。
うん?
ひどく、っていうほどでもないか―――自分でもよくわからない。
とにかく僕が頭を整理するためにも説明をした方がいいのだ、きっとした方がいいだろう―――。
彼女とは慣れ染めてからおおよそ二か月。
彼女のことを最初に知ったのは、クラス替えで一緒になったときだと―――そう記憶している。
二年生に上がること、進級するその前から、彼女は注目されていたのだろう。
人目を惹く美人ではあった。
否定はしない。
目はぱっちりと開いているが幼さよりも、きりっとした、引き締まった印象があった。
手足がすらりとしていて、女子としては身長は高い方、だろうか―――。
「すげーよな、『嘉内夕陽』、二組のあいつのことも、付き合うの断ったらしいぜ」
僕は嘉内夕陽をなんとなく見ていただけなのであって、余計な情報を欲してはいなかったのだが。
県内ではどちらかというと進学校であるこの高校だが、男子が勉強だけをする生物ではない。
すなわち人間であるということには変わりないようで。
それはたまに発生する、あいさつ代わりの話題だった。
まあ、自然だろう。
クラスの、お調子者というか口がまわる連中だ。
まあ僕も回るほうだけど。
色恋沙汰に関しては実に楽しそうに話すという和南には、ちょっとついていけない時があったが。
嘉内夕陽は実際男子に人気はあるのだろうと、彼女を遠目から眺める。
ドラマに出ている何とかという女優に似ている―――というようなことを
楽しそうに言った。
ううむ、何故自慢気なのだお前が。
彼女と付き合ったことがあるのかと聞いたが、いいや、全然―――と答えた。
平気そうだったが、謎だ。
お前の彼女でもないのによくもまあ楽しそうだな。
それと僕はあまりドラマは見ないほうなので、ドラマに出ている何とかという女優の名前も覚えていなかった。
とにもかくにも嘉内夕陽はまあ、目を引く女子生徒ではあった。
厳密にいえば僕の理想のタイプとはちがった―――僕はもっとこう―――いや、やめよう話が逸れる。
あと恥ずかしいです、勘弁してください。
「可愛いよなぁ。でも告白されて断るってことは―――実は付き合ってる奴いるのかな、もう」
「さあ………」
僕は硬派な男を気取り、そういうちゃらちゃらした話題を受け流した、いなしていった―――まあ地属性だから、気取るも何も、そこそこ硬いのが僕という能力者であるのだけど。
岩石。
カタブツよ、僕。
じゃりじゃりの砂よ。
雨降って地固まる………とか、うん。
そんな感じだ。
うん―――いや、この時点では僕は人間だったのだが。
そうだ、進級して春のことだから確かそうだった。
とにもかくにもこの頃、春の僕は新しいクラス全体の雰囲気がよくわからず―――今思えばおちゃらけた和南も、妙なテンションだったな―――緊張していたのかもしれない。
フン、見た目だけでそんな、なびかないよ、というような顔をしながら、彼女を横目でちらりちらりと見ていた。
そして彼女はクラスの委員長にもなった。
くじ引きで本当にランダムで決まるはずの委員長の枠を、嘉内夕陽が引き当てる。
そういった重要な職は生じる責任から、引き当てたくないと思う者もいて、僕も委員長を得意な人間ではなかったから―――委員長を得意な人間がいるのかな?
砂護野晴委員長が誕生しなかったことは幸運だっただろう。
とにかく。
嘉内夕陽がそうなったときは最初、ほっとしたものだ。
別に悪いことでもない、誰かが引き当てるのには変わりない。
まあ、しいて言えば彼女に対してこれ以上目立っても仕方ないだろう
これによりクラス行事等でも男子と接点を持ち、真面目系統の男子とも、接点を持つようになり―――その手腕も、悪いうわさは聞かない。
ちゃんとこなすようだ。
品行方正で、成績も優秀なのではないだろうか―――おそらくだが。
真面目な生徒だ。
参ったな、およそ隙が見つからない人物なのかもしれない―――。
何でも出来る、という事は、目立つという事でもある。
地味な僕からすれば、それは尊敬の対象であるとともに、恐れ多いことであった。
そこまでやるか?
………まあ、いいことだけど。
悪いことじゃあ、全然ないけれど。
しかしながらそんな状態になってさえ、僕は教室において、結局彼女との接点はなかった。
まあこれからも、おそらく住む世界が違うのだろうなぁというような印象だけをもって、たまーに見ていた。
彼女を。
机に座る彼女を。
胸部がぐっと持ち上がり、制服が丸く押し上げられていた。
―――僕はそこから目を逸らし、彼女の欠点と呼べる
整い過ぎている。
すこし怖い。
落ち着け僕。
なんのことは無い、確かに目を引く存在はいる。
デザインにおける美的効果のようなあれだ、どこかで読んだことがあるだろう。
人間の目にはやや過大に映ったりするものさ。
目を逸らして退避。
何か疲れる。
目が、眩しくて。
太陽を見ているようだ。
………そういえば夕陽だったな、あの子の下の名前は。
眩しいねえ。
僕と彼女は、それでも教室で接点がなかった。
接点は思いつくものがほとんどない―――ふと彼女と目が合い、気まずくなる、などということは一度もなかった。
彼女はまわりの女子と話す―――優しくて、誰とでもそれなりに話せるタイプらしい。
それはそれでいい―――。
目の保養にはなるかと。
そしてそのうちどこか、まっとうな男子とくっつくのが妥当だろう。
どこか、笑わずに―――何かが欠落したような表情をして机に座っている瞬間がある。
退屈そうな顔が―――僕は、たまに可愛いとは、思わなかった。
美人かもしれないが、なんだか物足りないものがあった。
―――というのが、見た目の話。
遠くから見ていただけの話。
一度くらいは話してみたいな、とは―――思っていたけれど、そりゃあ。
いや、どうかな。
やっぱり勉強してたり、男子と漫画、ゲームしてたりする方が、気楽だったと思う。
そんな普通の男子が、僕だ。
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