第8話 修行中の身 1
がたんごとん、と揺れる電車の中で、砂護野晴は座席に座っていた。
窓から見える風景、通り過ぎていく過ぎる景色は何の変哲もない日本の田舎風景。
その風景は田んぼか畑ばかりである。
砂護野晴自身もまた、鞄を膝の上に乗せ、窓の外を眺めている分には、普通の十代の高校生。
不思議も何もない、目立たない少年である。
++++++++++++++++
僕とギミーさんとの出会い、馴れ
当時の僕は高校二年生に進学したばかりであり、季節は春。
それまでは何の変哲もない―――とは言わないが、男子高校生だった僕が自分の能力に気付いたのはその時期である。
気づいたというか、ギミーさんに………見出されたというか。
ネオノイドとして右も左もわからない僕は自分の能力をコントロールする術を教わった。
はじめは彼の
彼に支えられ、レベル上げの如き地味な修行をつづけている。
それから季節は移り変わり、肌寒さは完全に消え、桜散り、冬服から夏服に着替えて学校へ通い、空気がしめっぽくなる日が増え、雨の日が目立つようになった六月。
まだあれからたった二か月かと思うと、時は過ぎていない気がする。
時がたつのが遅い。
とにかく春に―――あの頃の春に不思議な力を、僕は発現し。
能力を振り回し、振り回され。
人間ではない、超人的ななにかになった僕は、しかし
本物のヒーローにはなれなかった―――少なくとも、思い描いている理想像とは、かなり違った。
現時点で、誰かを助けていない。
弱い人を助けたり救ったりはしていないのが悔しい。
不幸な人を幸せにしたりしていないのが悔しい。
今までにできたことと言えば、自分の力を振り回し、振り回されただけである。
今は普通に、高校生をやっている。
教室で三十二名の生徒のうちの一人として、日々勉強をしている。
ええ、現代文とか数学とかをやっているんですよ。
習っているのですよ。
そして放課後はギミーさんのもとへ行き、能力の修行をしている。
「………なんかなぁ」
こんなのでいいのかな。
日常でいいのかな。
毎日学校で勉強したり、修行をしたり………あれは修行と呼べるのかどうか、今でも半信半疑ではあるが、とにかく取り組んでいる。
そんな日々だ。
普通だ………
地味とは、地面の味―――という字を書く。
………まあまさしく地属性能力者って感じだが、もうちょっと何とかならないのかね。
電車の速度が、徐々に落ちてきた。
がたんごとんの速度もスローになる。
駅が近い。
目的の駅が………無人駅だ。
ぼさぼさと生えた木々の中に、プレハブ小屋とベンチだけをおっ立てたような粗末な場所。
無人というか、無文化すら感じる―――この現代社会において。
僕は立ち上がり、電車内の駅員さんに黒い皮の定期入れをみせる。
その小さな駅に降り立った。
春の訪れはとっくに過ぎ去り、現在は好き勝手に生えた草の匂いが強い。
ここから距離はそうは慣れていないが、坂道なので多少は修行になる。
普通の、身体のトレーニングだけれど。
その場所を目指す。
僕の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます