第9話 修行中の身 2
人里離れた丘陵地帯にそのマンションはあった。
造りがやや特殊で、坂に沿って階段上に建物が建てられている―――そう、巨大な階段のような外観だな、これは。
面白い。
マンションでありながら、たくさん並んでいる一戸建て住居のようにも、見える。
僕の師匠、ギミーさんは変わり者だ。
いや、彼の人柄は―――本人はそれほど破天荒な性格の人ではないのだが、こんな山奥みたいなところのさびれたマンションをわざわざ選んで住んでいる点などが、変わっている。
実際、現在もここに住んでいる人はギミーさんを除くと、かなり少ないと思われる。
―――変だと思うかい?これがまた、いい景色でね。
そう言ってほほ笑む、どことなくロマンチストな人だ。
マンションの敷地は、建てられたころに比べると、随分長く放っておかれたらしく、ひび割れた塀に、ほそい
塀が塀なら地面も、地面で。
ところどころひび割れている、ぼろぼろのアスファルトに、雑草が突き破っているのが見える。
全盛期―――というか建てられたころだろうか、建物が、その際どうなっていたかはわからないが、僕が生まれる前に建てられたのだろうか。
管理状態はとにかく、そんなところである。
建物全体のがっしりした雰囲気は、通っている高校に近いものがあるが。
「そういやギミーさん、いつから『実践』やらせてもらえるんだろう、やらせてくれるんだろう―――」
そう呟きながら、入口へ向かう。
本来ならそのまま階段を上がっていって、三階にある彼の部屋まで上がって行こうと思っていた。
外観としては、階段の三段目にある、というような位置なのだが。
なかなか見飽きない建物だ。
素敵だ―――と呟くと、ううん、やや女子っぽいだろうか。
その時。
甲高い金属音が聞こえた。
金属がきしむような、擦れるような音が、連続で聞こえた。
ジャキッ
ジャキッ
ジャキッ
建物の影を走ってきた人影があった。
走っている。
それは走っている。
長距離走さながら、手を振り、スピードに乗って、身体を傾けながらコーナリングしてきた。
カエルの脚のように、太く存在感がある。
太ももにあたる部分―――人間の太ももにあたる部分が太く、それに反して足首の部分は細いフレームで構成されていて軽量化が意識されている。
ジャキッ
ジャキッ
ジャキッ
走るのが速いというよりは、走行性能がある―――走行性能が高いという印象を、見る者に与える。
力強い、鋭い足音。
足に対して腕は細い。
骨か、針金のようなので重量はほとんどないだろう。
その腕の先には赤いボクシンググローブが縛り付けられていて、全身の、鈍く光るボディと相反する印象を、見る者に与えた。
「おいおい………!」
僕は嘆息する。
その、白い骨格がなく、代わりに内部が金属フレームで構成されている人型の物体を見る。
ギミーさんのいる場所に、マンションの一室、部屋に上がろうと思っていたのに。
しかしまあ、不思議ではない。
不思議ではないと―――通いなれている僕は知っていた。
この敷地は、マンションは学校ではなく、修行場所なのだった。
今日の修行メニューはこれ―――らしい。
僕は斜め後ろに鞄を投げ捨てる。
ざざ、と砂地に軽く転がる。
その
僕に向かって、一直線に迫り来る―――。
僕は両手を前に向けて、ファイティングポーズをとった。
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