第36話 専門家・ギミーさんのマンションへ
後日、新たに出会った
あの全く持って
能力者の専門家、ギミーさんにも連絡は入れた。
僕が電話した。
あの無人駅で降りて、坂道を少し行く。
ギミーさんのマンションへ―――その建物も平坦ではなく、坂に沿って段々となっている住宅街のような雰囲気だった。
その建物単体で見るとハイカラな雰囲気で、そこには田舎町の雰囲気もない。
だが、彼女とギミーさんの対話、会話はいいとして、やった方がいいとして、僕の心境は複雑だった。
僕の中であのマンションは能力修行のための場所となっていて、そういう意識で通っている。
だからクラスメイトが来るのはなんだか―――むず痒い。
もちろん能力者の仲間なので遠慮はそれほど必要ないし、むしろ嬉しいのだが―――。
女子だからか?
ううむ、修行と女子は相反する気がするので確かにちょっと、アレかな。
別に女人禁制なんて言うルールはどこにも存在しないのだが。
気分としては、混ぜちゃいけないものを混ぜるのを黙って見ている感じである。
要するに女子と一緒にいるとドギマギしますよ僕は、という話なので本当にどうでもいいですね、ハイこの話忘れよう。
流そうね―――水に流そうね。
僕は地属性だけど水に流そうね。
「―――眺めがいいだろう?」
三階のギミーさんの部屋に来た時、開け放たれた窓から、景色を眺めていた。
遠くに連なった山が見え、時間帯によって色んな表情を見せる。
「それが売りの物件だったらしいけれどね―――まあ紆余曲折あって、今は私くらいしか住んでいない。水はけも悪いとかなんとか」
まあとにかくこんなところまで来てくれてありがとう、水橋さん―――そうギミーさんは
ギミーさんには謎が多いが、その微笑み方も含めて魅力的な男性に見えるときがある。
女子に話しかける場面を見て、なにやら不機嫌な気分になってしまう僕―――いやいや、そういう状況じゃないのに、そういう話じゃないのに。
実に、絵になるというか―――さっきの僕の脳内と反比例して格好いいので僕はうんざりする。
「………
静かに彼に呟いた彼女を見て、僕は一歩下がる。
「うん、初めまして水橋さん―――さて」
我らが師匠、ギミー氏は、椅子を進める。
水橋はそれよりも話を、と進み出た。
「初めまして―――ええと、『ぎみい』さん―――?で、よろしいんですね?」
半信半疑で名を読み上げる、という様子の水橋。
あからさまに不思議そうだ。
世の中は広いので、僕も中学や高校に進学するたびに、初めて見るような難解苗字に出くわしたことが何度かあるが、これはこれで不思議な名前である。
これが本当に日本人の名前なのか疑わしいらしく、発音も奇妙になっている。
「ぎみぃさん、下のお名前は何というので?」
「私はギミーだよ。それだけだ」
「………はあ」
水橋は―――納得は全くしていないという表情だったが、それでこの名前の件については言葉をつづけなかった。
安心しろ水橋、僕も知らないから―――下のお名前。
「この辺りの
「はい………修行、ですか」
少し微笑む水橋………まあ、なんらかのギャグにも聞こえるからな、聞きなれないし。
「ふふ。怪しい人だと思っただろう―――?で、今回ご招待したのは、君も」
「仲間に入らないかと?」
そうおっしゃるんですかと、これは予想してでもいたような、反応の速さだった。
ギミーさんは平常時の顔で―――少し間を置く。
「いけないかな」
「それは………教団の人にも言われたことです。あの教団の人も、そう言ってきた、きました」
声色だけでわかるほどに、警戒しているようだ。
まあ、あんなこともあったからな。
あれから水橋から聞いたことだが、誘拐されたというわけではなかったらしい。
だが心中穏やかで、初めて乗せられる車で座っていたわけでもなさそうだ。
「まあ、君に何があったかを聞かせてもらおう」
「何があったか―――というのは、私が『瀬の光の教団』という、ネオノイドの団体に………」
考えながら話す水橋にギミーさんは。
「最初から」
「さい、しょ………?」
「最初だよ、
水橋は黙ってギミーさんを見ている。
「能力者は―――ああ………こうして教えている立場だから、みんなそれなりに魅力をもった生活、日常を送っているのは知っているつもりだ―――まあそれでも。中には、あまり楽しくない話もあるかもしれない―――が、それを隠すのは、意味があるのかな―――?もうこれ以上」
今更隠しても。
また繰り返しになるのではないかな、とギミーさん。
水橋は沈黙するのを見て、僕が一番落ち着きがなかったらしく、その緊張感の中で、手を上げかけた。
人の秘密を聞き出すこと、ましてや女子にそれを聞くことを迫るのはいけないことのように思った。
あとは、なんていうか、普通に失礼なことなのではないか、ギミーさん。
「ギミーさん………あの、」
師匠に対してどこまでわきまえずに言うべきか。
「あの―――僕、席を外しましょうか」
なぜか出てきたのはそんな言葉だったが―――彼女にもいろいろと事情がありそうなのは自宅にまで訪れたことのある僕の方が感じていることだったので、僕も動くべきだろう。
能力者である以前に水泳部としての問題も抱えていたはずである。
彼女の負担を大きくしたくないと、僕は思った。
もう少し何か喋って、場を
シリアス過ぎるのはなんだかなあ。
そもそも―――そうだ、このまま警察の取り調べのような雰囲気になりでもしたら、彼女をここに連れてきた僕は、たまったものではない。
僕が原因か?
険悪な雰囲気にしようとしたわけではないのだ、ぼくは。
このマンションに連れてきたことは、もしかすると間違いだったのだろうか。
と、考え始めているうちに、水橋は話し始めた。
「待って………今、待ってください。話さなければと思っていました。それはもう、決めていたことです。ただ―――」
どこから話せばいいか考えている、と水橋さんは言った。
問題は、どこから話せばいいか。
沈黙は、単なるだんまりでなく、黙秘権の行使でもなく、説明のための思考、思考時間。
地属性能力者、砂護野晴の日常は―――一時中断。
水属性能力者、水橋李雨の―――物語というか、これまでの日常に、話は移る。
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