第27話 休日 釣りに行こう


それから二日後、その日の休日は、ショウさんに連れられて、ハタガミくんもつれて、釣りに出かけた。

海ではない―――川だ。

というよりも町の上流のダム湖の近く、だそうだ。

車でかなり山側に走った。


能力者ネオノイド同士、三人で水入らずというわけではなく、一般の人たちも多かった。

だから特に能力は使わなかった。

現地でショウさんの知り合いらしい釣り人のおじさんから、色々と手ほどきを受けた。

ショウさんは自分で捌いたりもするらしい。

僕は凄いなあと思いつつ、最近あった色んな事を考えながら釣り竿をにぎり、河原の、ちょうどいい感じの石に腰かけていた。

僕は主に、嘉内夕陽がまた何かやらかしていないだろうか―――と、考えていた。

見ていて落ち着かないのは彼女の容姿とはまた関係のない点で、ところである。


水泳部に探りを入れてなどいないか、と気がひやひやである。

実際既に彼女はネオノイドについて調べているらしい。

嘉内夕陽の行動力の高さは、色々と厄介だ。

彼女が騒ぎを大きくするかも、という懸念はあった―――水泳部にご迷惑をかけてなどいないだろうか。


だが、僕は当事者にも苛ついた。

水橋李雨も―――普通に学校に来ればいいのに。

双方にいらだつ。

どうせ中途半端な進学校だから、基本勉強、成績ばかり気にする連中だぜ、うちのクラスは。

少なくとも真面目に通っていれば教師は味方をしてくれるだろう。


とか何とか考えているうちに、横がうるさくなった。

隣のハタガミくんはいろいろやらかしかけていたが。

うん。

あの落ち着きのなさ。

いつも通りというか生来の落ち着きから、竿をふらふら揺らしてばかりで、なんだか調子が悪かったハタガミくんは、釣り針に食いつかない魚たちに業を煮やしていた。


「そうだ、電流を流せばいいんだ!魚は気絶して浮いてくるはず」


アッタマいいー、俺って冴えてる。

などと発言しつつ、人差し指の先にぱちぱちと電流を発生させた。

紫電と、黄色い閃光と、なんだか煙のようなものが少し見えた。

高速で動く蚯蚓ミミズのようだった。


そのクソガキを、ショウさんは後ろからがっしりと羽交い絞めにして止めた。


「いいじゃん、学校じゃないんだし―――痛い、痛い、まってる!」


「イヤそういう問題じゃないだろ!」


釣り。

馬鹿は放っておいて、放っておくとして、普段やらないことやってみると意外にも面白かったのは事実だが、今日あったことの、重大さは、これではなかった、この後だった、と言える。

釣りは大事おおごとにはならなかった。

大事だいじには至らなかった---。

まあ、簡単にまとめると僕は悪戦苦闘したあげく、魚は小さいものが一匹しか釣れず――ほ他のメンバー二人は何匹か釣っていたので追いつこうとはしたのだが、自分は釣りの才能は決してないという事を再確認した―――そんな日だった。



それらが終わり、ショウさんの車の助手席に、僕はいた。

ハタガミくんをとある駅で降ろしたあと、二人きりで走っていた。

ハタガミはやはり、違う校下に住んでいるらしかった、僕とは全く違う小学校、中学校と上がってきたのだろう―――道理で普段見かけないわけだ。

今のところ他のスポットであったこともない―――大きなショッピングモールやその他、お店でもすれ違ったことはない―――ような気がする。

まあ、結局のところ、降ろしたのは駅だから、家の正確な位置はわからないが。


「ははは、どうだったよ砂護くん―――釣りの感想はっ」


「うーん、やっぱり地属性だからですかねぇ、僕に魚が寄ってこないのは………?」


「そんなことはないだろ」


ふはは、と笑うショウさん。

笑う火属性能力者。

実は水属性なんじゃあないかな、と疑ったほどだ、この人―――六匹釣りやがったんだぜ。


「なんか他の話しましょうよ………ラーメンは何味が好きかとか」


「あとは砂護くんのタイプのとか」


僕は辟易する。

この人と二人きりになると、色々と面倒である。










水橋宅に、一台の車が乗りつける。

二人の男が、教団を示す服装で現れた。


「それじゃあ、『協光さま』へご挨拶をしに行くという事で―――本日は、よろしくお願いしますね………」


細身の男と、大柄な男とが二人組だった。

水橋李雨は、黒塗りの車の後ろの座席に乗った。

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