第11話 修行中の身 4
「学校の敷地内で起こったことに関して、私はどこまで口を出せるかどうかわからないね」
そう言うギミーさん。
ひとしきり話を聞いてもらったが、彼の表情は思ったほど変化がなく、僕は内心、がっかりではないにしろ緊張感が途切れる。
彼の正確な年齢は知らないが、学生ではないのだろう――若くて、二十代くらいに見えるけれど。
ここに住んでいて、僕とはかなり違う雰囲気を持っている、謎が多い人だ。
彼も彼だが、部屋も部屋だ。
本に囲まれて住んでいる、いや本の中によく見たら彼が住んでいた、ぐらいの部屋である。
「でも、でもネオノイドが確定しているんですよ、ネオノイドがかかわっていることがわかっているんです。それなら、ギミーさんが何か―――」
「やるべきだ、というのかい?私にやれと、やったほうがいいと、やっていないのが
「い、いえそう言うことでは―――ないのです」
ギミーさんはネオノイドの専門家だ。
だから僕たちは―――僕やハタガミくんなんかは、彼の考案した修行をいくつか受けている。
「元・専門家だよ。今は第一線から
「高校の敷地内のプール破壊………」
椅子に深く腰掛けるギミーさん。
「意図がよくわからないけれど―――破壊行動にしろ、誰かを狙ったわけでもない………?」
「この事件も『関わらない、忘れろ』とおっしゃるつもりですか」
「え?そんなこと、前にも言ったかな―――私は」
僕は一度、咳ばらいをし、頭を整理する。
整理しながら話す。
「『春』の―――僕が、僕と初めて会った時のことは、確かにお世話になりました。しかし―――」
「
部屋の外から、302号室の外から、大きな声が聞こえた。
声変わりは済んだのだろうか―――。
それでもまだ小学生男子要素を残す、カン
話の腰も折られるし、散々だ。
元気なのはいいことだとは言え―――ううむ、イライラ。
「………………ギミーさん、僕は能力者が関係する事件なら首を突っ込むつもりです、同じ仲間なら身内みたいなものでしょう、だって―――」
「砂護ッち!」
また中学生の声だ。
まあハタガミくんに関しては、どこか近辺の中学に通う中学生ということしか知らないのだが。
まあ、返事はするか。
「なんだよ!何を『持つ』って?」
「ロボットだよ!修行ロボ!」
「………………」
さっき僕に向かって走ってきたやつだ。
本来は戦闘用でも組手用でもないのだが、ハタガミくんが赤いボクシンググローブをつけて改造している。
僕は頭を抱える。
「動くんだろ、そのロボ!階段を上がってこい!上がってきなさい!」
なんだろうこの感情は。
僕はあの子の母親にでもなったのだろうか?
「僕が上がってくるの、邪魔しておいて………ギミーさんも言ってやってくださいよ」
ギミーさんが少し笑っているように見えたので、僕は機嫌が悪い
「
「知ってます。今日なんかは僕がマンションに向かって歩いてるときにいきなり―――」
「話を戻すけれど砂護くん………施設は壊れているわけだ。でも人的被害はない、だーれも、怪我してないわけだ」
「………」
「私の願いだけどね、修行して能力を扱う、これに専念してほしい。高めることは大事だしいずれ役に立つ。そしてできれば―――『日常』を過ごしてほしい」
「………『日常』ですか」
とても地味な言葉だ、と僕は思った。
だが言った本人ギミーさんは、何かひと仕事をした、とでも言いたげな満足そうな表情だ。
「
話を切り上げた、これで終わり。
そう言わんばかりに、彼は椅子に背を預け、机のわきに重なっている中から一つの―――読みかけらしい、本を開いた。
のんびり静かな場所で―――。
それがギミーさんの願いだ。
ギミーさんはいい人だ。
いい―――大人だ。
そして僕は………。
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