第45話 正攻法と奇襲

 力を大きく減退させた女神ヘステルに注がれた視線を奪うように、俺は小さな円錐状のクリスタルを手に立ち上がる。

 そして手にしたそれを旧北の国の海軍拠点、第二十四島、通称フタトヨジマでぶつかり合う赤と青の駒の中心に置いた。


「太古より続いた天と地の神の争いにより荒廃した世界を憂い、降臨と同時に人々を導き、そして平和を取り戻し世界を四つに分かち、皆様にその統治を依頼した。この世界で最も権威のある女神、ヘステル」


 全員の視線が小さなクリスタルの置物に注がれる。


「確かに今はその力を減退させています。ですがそれは、この空間を維持しているからです」


 俺の言葉に西の神が表情を一変させた。


「まさか……この空間を閉鎖するおつもりですの?」


 クリスタルに注がれていた視線は、今度は西の神へと集まった。

 俺はその西の神に向けて言葉を発する。


「その通り。この世界の未来を紡ぐには、どうしても魔族の塔は破壊せなばなりません。仮に魔族の塔の破壊に失敗して逃げ帰り、この空間に立て籠ったところで滅びの時を待つばかり。ならばこの際、神も人も、失敗する事など考える必要があるのでしょうか」


 そしてもう一つ、急ごしらえで作った木製のバツ印を現在地に置いた。


「背水の陣、というやつです」


 北の神が不敵な笑みを浮かべる。


「負けて帰るところなし……か。気に入った」


 東の神もしっかりと頷く。


「暗雲を晴らして東の大陸に帰る。それ以外に帰る場所はない。いいじゃない、面白い」


 だが南の神は浮かない表情を見せた。


「ふむふむ確かに仰る通りですが、まだ塔の破壊に及んでいません」


 西の神も同調する。


「そうですわ。女神ヘステルの加護を受けフタトヨジマを奪還し、魔族の拠点付近に楔を打ち込めば確かに敵を追い詰める所までは成功ですわ。ですが、魔族の塔を破壊しなければ、帰る場所を得るまでには至りませんことよ?」


 その意見に俺は同意を示す。


「御懸念の通りです。魔族の塔がそびえたつトヨジマを包囲するように、周囲の島々を奪還できたとしても……魔族の塔がある限り、其々の地域に戻る事は出来ません」


 そうなればジリ貧である。

 いつかは北の島々から追い返されるだろう。


「じゃあこの作戦は中途半端じゃねーか」


 東の神がそう言うと、他の神も同調するように頷いた。

 その意見に対し、俺は同意を示し続きを語る。


「確かにその通りです。本作戦は最終的に、魔族を追い詰めたトヨジマに対して正面から戦いを挑む正攻法となります。長期戦に耐えれるだけの補給を南の国から確保するため、北の海域の制海権を確保し続ける必要があります」


 それには相応の戦力を北の海域に残す必要があり、尚且つ、南の国では北で戦う軍隊を賄うだけの食糧や軍需物資の生産を迫られる。


「そして塔の破壊まで実行しようと思えば、更なる労力と時間を投入しなくてはいけません」


 このあと続けようと思っていた説明を先回りし、西の神がその狙いに気付いた。


「分かりましたわ。そのための技術力を西の神々、そして西の人々が提供するのですわね。今まで私たちの活躍どころが無いのは合点がいかなかったのですが、これで納得がいきましたわ」


 俺はしっかりと頷いて見せ、補足を入れる。


「その通りです。南の国での生産には、その後の輸送というリスクが付きものになります。魔族も馬鹿ではないでしょうから、海上輸送の妨害に躍起になるでしょう」


 南の神が神力を集中させると、虹色に光る小さな丸い駒を召喚した。

 そしてそれを北の島々の中でも比較的大きい島へと置きながら、自信に満ちた言葉を並べていく。


「現地生産を加速度的に進めていく。普通に考えれば数年を要する目論見でしょうし、魔族の妨害があっては尚の事厳しくなる。ですが、私達南の神の大地を愛する力と、西の文明の技術力があれば短期間での成熟も不可能ではない」


 話が早くて助かる。

 俺はその虹色の駒を見つめながら補足説明を続けた。


「それだけではありません。元々北の島々で生活していた人々の力があります。取り戻した故郷で、必ずや人類を救う手立てを講じてくれるでしょう」


 この点に関しては、正直なところあまり自信はない。

 だが、ここまでくれば十分なのだ。

 北の神が頷いた。


「何ができるかは、どの島を奪還できるかによる。どんな魚が獲れるか、どれだけの量を獲れるか、そいつは楔を打ち込んでから人間の王に依頼すればいい。出来る状況で出来るだけの事はしてくれる。それは私が保障するよ」


 東の神も満足そうに言う。


「いい作戦じゃねーか。東の気球戦団の力、魔族に見せつけてやるさ」


 どうやら反論は無さそうだ。

 だが作戦はこれだけじゃない。

 いや、むしろこの作戦は俺の狙いからすれば保険である。そうではあるのだが、その事は伏せておく。

 どちらかと言えば、この正攻法に対して別の保険をかけるという説明で伝える。


「ここまでが正攻法です。失敗はイメージしていませんが、可能性としてはゼロじゃない。そこで、本作戦と同時進行で別途奇襲を慣行します」


 無言のまま注がれる視線に、俺はそれを無視するかのように最後の青い駒を現在地に配置した。


「この駒は、私、そしてここにいる私の仲間二人。それから、西の国の人間から優秀な機械技術者を数名配置します」


 そしてその青い駒を魔族の塔の南西へ向けて動かしていく。


「ムトゴシマを奪還、防衛し、フタトヨジマの奪還へ向けて総力を注ぐ。当然魔族もその対応に追われる。そんな中、相手に気取られぬよう、なるべく小さな船でこの島を目指します」


 主な戦場は全て、魔族の塔のあるトヨジマの南から東側に位置するある程度の大きさの島だ。

 それに対し、俺が今しがた指し示して青い駒を進めたのは、トヨジマの南西に位置する小さな島。


「魔族の塔の目と鼻の先じゃねーか」


 東の神が身を乗り出して海図を覗き込む。


「はい。そしてこの島から、直接的に魔族の塔の破壊に挑みます」


 無言のまま向けられた神々の視線が、俺に『どうやって?』と尋ねている。


「破壊するための兵器を持って来ているのです。ルココ、見せてあげて」

「待ってましたー! ああ疲れた。口を開かずにただひたすら聞いているだけというのは実に疲れますね。ボクの人生の中で一番無言の時間が長かったんじゃないかと思う位に辛かったですよ」


 言いながら席を立ったルココは、持参していたバッグから次々と部品を取り出す。

 無論、取り出しながらも口が止まる事は無い。


「お目に入れますこちらの部品の数々は、天才美少女神にして天才美少女科学者でもあるボクが作り上げた超絶スペシャルハイパーな武器、エリオラたん改の部品なのです。これとこれをこうして、こっちとこっちをこうして、ここをこうして、あっちのこれとこっちのこれとをくっつけて、こうしてガチャリと回すとあら不思議!」


 全く不要な説明が多いが、目の前でバズーカ砲が組みあがった。


「この武器の破壊力は女神ヘステル様のお墨付き。転移ゲートなど木っ端みじん子に吹き飛ばす高火力でありながらも、その射程距離は五キロ超というとんでもない優れものなのです!」


 唖然とする神々の中でも、特に西の神は目を輝かせて口を開く。


「確かに凄そうな雰囲気ですわ。ですが、そんな小さな武器であの魔族の塔を破壊可能ですこと?」


 西の神の言葉に、ルココは満面の笑みで答える。


「無論勿論ノープロブレム! 一発でへし折ってくれますよ!」


 そのやり取りに俺から補足を入れる。


「現段階では十発程度で破壊出来るという算段でいます。ですが相手のある事、それだけの数を撃ち込ませてもらえるかどうか怪しい。そこで、西の神々や人々の技術力をお借りしたい……というわけです」


 昨晩散々意見を出し合った結果、やはり十発撃つまで魔族の攻勢を防ぎきれるかどうか怪しいという判断がなされた。

 そこで思い切って改良してしまおうという結論に至ったのだ。

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