乙乃章 参節 譚之十三

「分かったから、もう俺のこと馬鹿バカ言うなって」

「いやだ、イーッ」

 仁帆里は、ふくれっ面を須多爾に突き出した。

「なんだ、こいつ」

 須多爾は、言いながら仁帆里の頭を撫でた。

「なっ、なにすんのよ」

 仁帆里は、さらに真っ赤になった。


「ただし、これからはそうもいかんのだ。そのことも含めて話を元に戻そう」

「はい」「はいっ」

「うむ、須多爾。先ほどまでの話を、覚えているか」

「はい、歴史がどうとか、っていうところまででした」

「そうだな」

「はい。いま一度説明をしてください」

「うむ、では先ほど、仁帆里がしていた国祖様の話で続けよう」

「はい」「はいっ」

 須多爾と仁帆里は、肩をそろえて寝台の上で鵜師と向き合って腰掛けた。

「仁帆里が言おうとしていたのは、こういうことなのだ。国祖様は、病で斃れられたのではない。そうだろう、仁帆里」

「そう、ですね。祖父のところにあった、いくつかの歴書では暗殺、しかも毒殺だったと明言しているものもありました。部族によって、伝わり方にかなりの差異があるんだって祖父も言ってたんですが、阿僧祇あそうぎ側が手を降した、というか、手引きによって国祖様が弑殺しいさつされた、というのは間違いがないようです」

「なんだって。じゃあ、じゃあどうして書館の歴書には、書いてないんだ」

 ふう。と、仁帆里が溜息をついた。

「言っていい?」

「ん? なにを」

 須多爾は、きょとんとした目つきで、仁帆里と鵜師を交互に見ていた。


「ばっか、じゃない?」

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