乙乃章 参節 譚之五

 須多爾がその時の口調を思い出し、頬を赤らめながら言った。

「うむ。ところで、縷々香が国王爆殺の容疑者であることは、どの時点で知り得たのだ?」

「え? それは縷々香を捕らえに来た兵士達が『陛下に手を掛けるとは! 』という罵声を口にしているのが聞こえたから・・・・・・。え?」

「分かるか?」

 鵜師が、ごく短く尋ねた。

「はい、あり得ませんね。俺たちより先に縷々香のところに駆け寄ることができた人間が、口に出来る言葉じゃ、ない」

「そうだな」

「まさか」

「このことを理解するためには、まず卯差氏の国の成り立ちから説明しなければならないのだ」

「え、だって歴史は習いましたよ。俺たちだって、修練とは別に学問所に通っているではないですか。鵜師もご存じのはずでしょう」

「うむ、それは施政者に都合のよい記述の歴書を用いて行うおもての歴史というやつだな」

「え、だって歴史は歴史、でしょ。細かい出来事まで一字一句間違いなく伝えるというのは無理であっても、時の流れは厳然としてそこにあったわけですし、どういうことなのでしょうか!」

 須多爾は、理解できない、言う面持ちで鵜師に食って掛かった。

「うむ、ではこうしよう。学問所では球技もするであろう」

「はい、します。蹴球けまりが科目としては必須です」

「うむ、そうだな。手合も当然するな」

「はい、しますね。学内での選抜学年対抗手合とか、学外との公開手合とかもあります」

「お前は、どうなのだ」

「俺、ですか。いやあ、こう言っちゃ何ですけど、学問所の中では蹴球が一番好きな科目です。もう、こうして話をしているだけでも、血が騒ぎます」

「そう、なのか。一度観てみたいものだな」

「あ、そういえば、鵜師には一度も来ていただいたことがありません。というか、修練所の外で俺たちがなにをしているのか、ご興味がおありなのですか」

 須多爾が半ば信じられない、という表情で抗議した。

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