乙乃章 参節 譚之七
「あーもう、ほんっとにじれったいわねえ」
「え? あ、仁帆里。大丈夫なのか」
「なに、それ。大丈夫に決まってるじゃない。それより、あなた本当に鈍いわねえ。天然級だわ」
「そうじゃないだろ、お前。いつから聞いてた」
「んー、たぶん最初のほう。あんまりおっきい声出すから、目が覚めちゃったのよ。でも、頭が痛いからずうっと目を閉じて休んでたの!」
「え、全部聞いちゃったの」
「たぶん、ねえ。あなた泣いてたでしょ」
「え? い、いや、そのう」
「なぁに、今さら恥ずかしがってんのよ。もう、なにからなにまで、知ってる仲でしょ」
「え、なんでも知ってるって、お前なにいってんだよ」
「なに、勘違いしてんのよ。これだから、あなたってぇのは、やってらんないってんのよ、いやらしい。どうして、同じ男であなたと縷々香ってば、こんなに違うのかしら。なんで、あなたは縷々香みたいにはなれないの」
「当たり前さ、俺は須多爾で縷々香じゃねえ」
「そうじゃないっての。まあ、いいわ。そのことは言っても仕方がないんだから、やめましょう。でさ、あなたどうして鵜師の言ってることが、分からないわけ」
「いや、だってさ。歴史が違うんだって言われても、どういうことだか。俺だって、単位を取るために、書館に行って調べ物したことぐらいあるさ。でも、細かい出来事の書き方は違ってたけど、書館の本も学問所で使ってる教科書と同じこと書いてあったんだぞ」
「なにいってるの、やっぱりあなた馬鹿ねえ。書館に置いてある本なんて、結局同じことを都合のいいようにしか書いてないのよ。あたしはねえ、縷々香が好きでしょ。だからぁ、好きな人のことはなんでも知りたいの。それで、濤族のこととかもいろいろ調べたのよ」
「どうして」
「だってさあ、変だと思わない。濤っていったら、国祖様の部族よ。なのに、濤の人って今あんまり有名な人いないじゃない。おかしくない。なんで、そうなっちゃったの。王様の出身部族よ。それが、どうして今こんなに少ないの」
「うん、そういえば、そうだな」
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