乙乃章 参節 譚之廿
「そうね須多爾ならそうするでしょうね」
「ん、なんだよ! じゃあ仁帆里ならその理由が分かるってのかよ」
「うん、たぶん」
「え? じゃあ頭の悪い俺にも分かるように教えてくれよ」
「あたしの考えていることを言ってもよろしいでしょうか、鵜師」
「うむ、私も訊いてみたいな」
「はい。やはり阿僧祇は卯差氏の潜在をとても恐れているのだと思います。だから、力で抑えつける方法は取らなかったのではないでしょうか」
「なんだよ。ぜんぜんまったく分からないぞ!」
仁帆里は須多爾の抗議などまったく耳に入らないかのように続けた。
「あたしは祖父が歴史家でしたし、濤族のことをもっとよく知りたくて調べたのでそれはそんなに特別なことじゃないと今日まで思ってました」
「ふんっ。ただの濤族のことじゃないだろ、縷々香の濤族だろ」
「何よ!」
仁帆里はちゃちゃを入れた須多爾を睨んで叩く真似をした。
「こわっ」
「須多爾はとくにバカなのだとは思いますが、鵜師が先ほど言われたように卯差氏臣民のほとんどが阿僧祇の支配を気付かないで受容してしまっている。それは阿僧祇の巧妙さ故ですが、阿僧祇をそこまで巧妙にさせたのは永き時代を戦乱に明け暮れていた歴史がある卯差氏の未知数の戦闘能力を恐れてのことではないかと思ったんです」
「そうだな。加えて卯差氏国土の深い自然と複雑な地形が外部からの侵入を強固に拒んでいることも関係している」
「真っ向から戦っても消耗するだけ、ということですね。俺にも分かるぞ」
「あら、少しはお利口さんになったのね。よしよし」
「当ったり前だろ、そんぐらい。だからバカって言うなって」
「なによ! 噛み砕いてあげないと飲み込めないくせに」
「ぐっ!」
「だから今回も国の要を失って困っている卯差氏に救済の手を差し伸べる形を取ろうとしている。卯差氏の誇りを踏みにじるような奴は許せないから懲らしめよう、という体裁をとっている訳ですね」
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