乙乃章 参節 譚之廿一
「うむ、概ねその通りだな」
「ますます許せんな阿僧祇め。俺のような無垢な心を持った人間を騙すなどもっての外。なんとか懲らしめる方法はないものなのですか」
「無垢? 無知の間違いじゃないの? 特に須多爾に限って言えば」
「なにを。人をばかにするのもいい加減にしろよ!」
「悪かったわよ。ほどほどにしとくわよ」
「鵜師、もうひとつ、お訊きしてよろしいでしょうか」
仁帆里が、打って変わってかなり思いつめた表情で鵜師の顔を見据えて言った。
「失礼な物言いになりますが、王立劇団の一教官である鵜師が、どうしてそこまでのことをご存じなのでしょうか。もしや、先ほどの襲撃とも関係があるのでしょうか」
仁帆里の問いに、鵜師は少し居住まいを
「卯差琥栖儀に影の様に着き従い、彼女の
「え? ええっ!」
仁帆里の目が、まん丸くなった。
「しかし、それよりも、まずは良き友人だった、な」
穏やかな瞳で何かを思い出すように鵜師がつぶやいた。
「うむ、わたしはな、実は濤なのだ。陛下は
「では、国祖様をご存じだったと?」
「そうだな、ご存じも何も、
国祖様のかつての隣人、というか幼馴染。
須多爾と仁帆里にとっては、いかにしても図り知ることのできない、文字通り雲の上の様な事をこともなげに話す師を、しばらく呆然と眺めていた。
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