乙乃章 参節 譚之廿二

 ふと、仁帆里が何かに気がついたように、鵜師に尋ねた。

「鵜師。今更ながらに伺いますが、鵜師はお幾つなのでしたっけ」

「うむ、わたしか。わたしはな、今年でちょうど四十四になったところだな」

「いえ、しかし。いま、確か国祖様とは幼馴染と言われたような気がしたのですが」

「うむ、私と同年だからな。陛下もご存命であれば、今年でちょうど四十四歳になられる」

「そんな! では、建国のときには、まだ十四歳? あまりにお若い、というかわたしと同じ年?」

「っていうか俺ともいっしょじゃんか。いきなり卯差氏を統べよなんて言われても俺には絶対出来っこないぜ」

「もー、バっカじゃないの。須多爾になんか誰もそんなこと言うわけないじゃない!」

「お? それもそうか。でも、本当に国祖様はすごく若くして即位なさったんですね」 

「うむ、そうだな。そのことは、ほとんどが濤の者しか知らん。しかも、その後も阿僧祇が国祖を神格化するために隠蔽していたことだ」

「あたしは、というより、現在の卯差氏の臣民は国祖様がそれ程までにお若かったなんて、ほとんど知らないと思います」

「うむ、しかし。仁帆里の祖父殿は歴史家ではなかったのか」

「はい、ですが。私の部族は最後まで濤に抗していたもので、統一よりも前の資料が乏しくて良く分からないことも多いんです。統一後の国祖様はよく顔をおおってらしたらしいですし」

「うむ、各部族の長老どもにあなどられんようにな、頭巾を召されることも多かった、な」

「卯差氏臣民、それこそ重臣はそんな若年の王に何の抵抗もなく仕えることができたのでしょうか、それとも後見人がおられたのでしょうか」

「摂政などの後見人もまったく置かれなかった。陛下はそれだけの才気をお持ちだったのだ。されど建国のころは重臣にも旧弊に囚われる者も多かったのも確かだ。陛下の機知をもってしても難航する事柄も多かったと聞く。それ故に他国の威光を借りようとしたのかも知れん」

「それで分かったような気がします。なぜ、国祖様はそうやすやすと阿僧祇に入り込まれてしまったのか、と。としわかだから、といって許されることばかりではありませんが」

「うむ、だからこそ本当に信の置ける者を傍に控え、時として自分の手足しゅそくとして動ける者の必要性をを心から望まれるようになっていったのだ」

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