乙乃章 参節 譚之廿三

「由解違はどれぐらいの規模の組織、だったのでしょうか」

「うむ、各門家の惣領以外から三○人ほどが選抜された。すべてを秘密裡に進めるために私が仲介となってな。最終的には陛下が面察され任命した」

「え、少ない。少なすぎませんか」

「うむ、事と次第によっては、さらにそれぞれが信の置ける近者を臨機応変に手駒に使うこともあった」


「しかし、由解違が居ながら、何故なにゆえ国祖様は弑殺される憂き目に遭われたのでしょうか」

 須多爾が、問い質すように訊ねた。

「む!」

 と言ったきり、鵜師は沈黙した。

 横を見ると、仁帆里が何かに怒ったように睨みつけていたので、少し引いた。


 どれくらいか、しばらくの時間が流れた。

 須多爾は、この時間が何を意味するのかよく分からなかったが、とりあえずこれ以上の言葉を発するのははばかられるような気がして、鵜師が言葉を継ぐのを所在なく待っていた。

 鵜師の口が、とてもゆっくりと開かれた。

「うむ、そうだな」

 とても静かな、憂いを含んだ物言いのように聞こえた。

「我らは各地に散っていた。阿僧祇に対抗出来得る策を探って各部族地に赴いていたのだ。あの誰よりも慎重で自らを律される陛下が敵の手に墜ちる筈はないと高を括っていたのだ。あのお方が、よもや寝首を掻かれるようなことなどあり得ないと……」

 窓の外に目を遣り、鵜師は言葉を探しながら話し始めた。

「我らの第一義は、陛下の手足となることだったのだ。そのことが、即ち陛下を護守することになるのだ。傍にお着きしていては、それは適わぬ」

 肯定の言葉ではあったが、あの鵜師から発せられているとは思えないほど、心の籠っていない言い様であるように、須多爾には思えて仕方がなかった。まだ、師の中でも決着の着いていないことなのだと、容易に見て取れた。

 こちらを睨んでいた仁帆里の口が「ば」「か」と動いたかと思ったら、仁帆里が鵜師の方に向き直って、言った。

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