乙乃章 参節 譚之廿四

「そう、なのだと、思います。あたしのような者が言えることではないのは、十分に承知していますが、でもやはり、それは禁軍の担う役割ではないかと、思います」

「む、そうでは、あるのだが。わたしの中でも幾度となくそう思うことで気持ちに区切りを着けようとしたのだが。わたしの中のどこかが、それをあらがうのだ。出来ることが、いや、しなければならぬことが、あったはずだと」


「鵜師」

 須多爾が声をかける。

「俺、身分が違いすぎる、と一括されそうですが、縷々香に対してそんな思いになりたくない。縷々香のことで、後からくやみたくないです」

「そうです、鵜師」

 仁帆里が続く。

「あたしも、絶対いやです。私たちの手で縷々香をかならず救い出したい」

「うむ、そうだな。そのことが、いま第一の先決だな」

「鵜師、あたしはそのためなら、縷々香を救い出すためなら、人を殺めることも厭わない。もういちど一緒に舞いを舞えるなら、何だってします。でも、それにはやはり自分の意志でもって自分の体躯からだを扱いたい。それこそ、操り人形では居たくない」

「俺も戦います、鵜師。でももう、あんなもどかしいことは、金輪際なしにしたいです」

「うむ、もとよりそのつもりだ。ゆるせ、先刻は猶予がなかったのだ」

「あれは。あれは、我らの力ですか。それとも、何か違う力なのでしょうか。もしも、真の力であれば、あれを自らの手に握りたい。もし違うものなのであれば、一刻も早く取得し、自らの血肉としてふるいたい」

「うむ、委細を詳らかにしよう」

「はい、お願い、します」

「わたしは、舞曲方の出、だとは話したな。舞曲方とは武運祈念などを掌る家門だ、とも話したが、あくまでそれは一面的な物言いなのだ」

「と、いうと」

「うむ、舞曲方の太極おおもとのはじまりは、軽業かるわざや幻術を行い、人形を操り、女は淫楽いんらくをもなりわいとした漂泊の民であったらしい。人心を操ることに長けていたために古代の濤の酋長に重用され、あつい処遇を以ってこの地に迎えられた。これが、家伝書に記載されていることだ」

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