乙乃章 初節 譚之二
鵜師は縷々香を王立劇団養成所に連れてきたときのことを思い出していた。
彼が四歳の時だ。王立劇団は、各部族から優秀な子弟を集め養成所で英才教育をしていた。養成所では各地から集まってきた子供たちを三人ずつ十組の班に分けて育て始める。三人で一組なのは、切磋琢磨によい環境を形成するのに必要な最小単位だからだった。
十組の班は年ごとにそれぞれが決まった名前をつけられる。三人が寄り添った形が花に似ているということで、花に例えた名前をつけられた。
花は決まって男女の混成で組まれる。女二、男一の場合もあったし男二、女一で組まれることもあった。混成にするのは、子供とはいえ異性を意識して演技に艶が出ることを見越してのことだ。
四歳のころから、寝食をともにさせ絶対的な信頼関係を築く。初舞台までの十年でその関係はほぼ完璧なものとなる。年を追うごとに個々のつながりから花同士のつながりへと発展し演目を通じて見事なまでに融合していく。それが、王立劇団の完成度の高さを物語っていた。それゆえ王立劇場の演目の出演者はそのほとんどが三の倍数と決まっていた。
訳あって預かった時、縷々香は痩せていて背も小さかったが、目だけがきらきら目立つ子だった。
花の組み合わせが決まり、はじめて三人を引き合わせたとき、仁帆里が言った。
「あたし仁帆里」
「僕、縷々香」
「あなた、目がでっかいわね」
「そう?」
「あたし、でっかい目、好きよ」
「ありがと」
「何あなた。そっけないわねえ。女にはもっと気持ちでしゃべらなきゃ、ダメよ」
「あ、ごめん」
「ダーメダーメ。男はそうカンタンに謝っちゃダメよ」
「うん、わかった」
「なあに、あなた。覇気がないわね。あなたはあたしがついていないとダメね」
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