乙乃章 初節 譚之三

「そう、かな」

「そうにきまってるわ」

「ちィーっす! 仲間に入れてよ」

「なによ、あなた」

「オレかい? 俺は須多爾さ」

「へー、あなた。軽すぎ。バカみたい」

「でへ、きついね」

「あなたは、あたしが押さえとかないとどっかに飛んでっちゃいそうね」

「ひえ」

 初対面から、わずか数刻すうこくで玉花の力関係が決まってしまった。

 将来が楽しみだ、と鵜師が思った瞬間でもあった。たかだか四歳児ではあるが、彼らに任せておけば大丈夫だと思えた。預かった子の居所を見つけてやることが出来て、ひとつ肩の荷が軽くなったように感じた。


 思い出して、鵜師の口許がほんのわずか緩みかけたときだった。

「縷々香…、縷々香を早く助けないと!」

 思いつめたように須多爾が叫んだ。

 その声には、鵜師ばかりではなく、仁帆里もとても驚いたようだった。

「大丈夫だ。私がなんとしても救い出す。安心していろ」

「違うんです」

 須多爾がなおも続ける。

「俺が気づいたのは、半年ぐらい前だったと思いますが、ヤツは病気なんです」

「え、なんですって」

 こんどは仁帆里が叫んだ。

「何? どういうこと。なんで。何で、言ってくれなかったの」

「うん、絶対に言わないって約束したんだ、ゴメン。仁帆里に言うかどうかはすごく悩んでたんだ。でも、言うときは絶対に自分の口から言うっていうから、何も言えなかったんだ。許して・・くれ・・・・」

「どういうことだ、須多爾」

 こんどは鵜師が尋ねた。

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