乙乃章 初節 譚之四

「はい、縷々香の話しでは少学門を修了したころだったんだそうです。御不浄に入っていたら急に体が震えて、全身に激痛が走って何もできなかった、といってました。しばらくはじっとしていて痛みに耐えていたのだそうですけど、そのときは一時いっときぐらいで収まったそうです」

 須多爾は続ける。

「でもそれからは時折同じような痛みがやってくるそうで、もう慣れたともいってました。俺も、本当に偶然なんです。朝、布団に縷々香がくるまっていて、最初はふざけているのかとおもって布団をはがそうとしたら、すごく震えていてすごく汗もかいていてびっくりしたんです。

 なんでもないって言ってたんですけど、あんまりひどかったんで無理やり聞き出しました。はじめはぼそぼそと、何度か俺が言ってやっと話し始めました。月にすれば一回程度だって言ってましたけど、いつもは体がだるく熱くなる程度で何回かに一回はすごく重くなって痛いんだって話でした。だんだんひどくなってきてるからもう長くないのかもなんて言うから、俺殴っちゃたんです」

「あ、あのとき」

 仁帆里には覚えがあるようだった。

「なんか二人が修練所に来たときに変な雰囲気だったから、よく覚えてる」

「うん、ゴメン」

 自信家で気の強い須多爾が一日にこんなに謝るのは、たぶん生まれて初めてだった。

「あん時だって、言え言えって脇を小突いてたんだけど。結局、縷々香言わなかった」

「でも、そのころから縷々香の踊りにはなんか気迫が乗るようになって、俺でも見惚れるようになっちゃたから、いいのかなって。俺も身長が伸びるときに、体がすごく痛くなったから、縷々香もそれなのかなって。でも、縷々香はぜんぜん大きくならないし、変だなって」

「馬鹿!」仁帆里がいつもの調子で怒鳴った。

「あなた馬鹿じゃないの、ほんっとに。もっと頭使えって、言ってるでしょーが」

「ほんと、ごめん」須多爾がまた謝った。


「須多爾」

 鵜師が静かに語りかけるように言った。

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