乙乃章 初節 譚之五
「は、はい」
仁帆里の口撃を必死にかわしていた須多爾が、少しだけほっとしたように鵜師を見た。
「お前は友との誓いを守ったわけだな、偉かったぞ」
「あ、はい」
「しかし一人の友との誓いを守るために、もう一人との信頼を捨てたわけだな」
「え?」須多爾が声を漏らした。
「しかも師弟の鉄の絆も無き物にした」
「あ!」須多爾はさらに声を立てた。王立劇団では師弟の絆は絶対だった。
「おまえが本当にしなければならなかったことは、何だ」
「はい、それは」須多爾の声は消え入りそうだった。
「何だ」
鵜師の声は静かだがとても強い語気だった。
「そ。そ、それは、縷々香にすべてを話すように説得することでした。仁帆里に打ち明け、鵜師に相談するように強く言い聞かせることでした」
「うむ、そうだな」
また、鵜師は静かな口調に戻った。
その時だった。
!
鵜師の肩口に何かが勢いよく振り下ろされた。
「はっ!」
気配を察知し、間一髪よけたその体に次の一撃が容赦なく降りかかる。
右足を軸に右後方に大きく跳ね退き、次の攻撃をかわしながら左膝で襲撃者と思しき影に渾身を込めて突っ込む。
「ぐっ!」
相手のくぐもった声がすると同時に、さっきまで向き合っていた二人の声が聞こえた。
「鵜師!」
「鵜師っ」
鵜師は二人がまだ無事であることを認めると、口の中で何かを口走った。
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