乙乃章 初節 譚之六
「
二人の耳にそれが届いたがどうかは分からない。それほどまでに小さな声だった。
しかし、それからの二人の行動は明らかにそれまでとは違っていた。
動いたのは須多爾だった。
彼は、修練場の壁に掛かっていた演舞用の長刀に駆け寄ると、二本を取り鵜師と仁帆里とに同時に投げた。
二人が手に出来たかどうかも確かめず、また壁に向かうとさらに二本を取り外し地面と水平に上下に構え、刀身そのものを振るって
果たして須多爾の投げた二本の長刀は鵜師と仁帆里の手に吸い込まれるように飛んで行き、柄は二人の手にピタッと張り付くように握られた。
仁帆里は長刀を手にすると、剣を抜き自分の前で数字の8の字を書くように両手で回し始めた。はじめはゆっくりとだんだん早く、やがてブォンブォンと風を切る音が周囲の音を支配していった。
襲撃者も三人のようだった。
影のような装束で殺意のみなぎる目の光だけがそれが生き物であることを示していた。
まず鵜師を襲撃してこちら側の戦力を削ぐ作戦であったことは、敵からの次の手が繰り出されてこないことからも明らかだった。
一瞬のにらみ合いの後、須多爾が飛んだ。敵の一人の胸元に飛び込むと下の刃を上に、上の刃を下に同時に交叉させた。
ド、ドスッ。
鈍い音が同時に起こり、胸元に入り込まれた影が
仁帆里は依然長刀をリズミカルに唸らせながら、一人の影と対峙していた。
脚も動かず、胴も動いているようには見えない。しかし相手との間合いは少しずつではあるが確実に詰まっていった。
ブォン!
長刀の切っ先が迫り、相手が後ろ足を引いた瞬間、ドオンともんどりうって悶絶した。
8の字の交叉するあたりから仁帆里の手刀が突き出されていた。
倒れたところに、回していた長刀で止めを刺す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます