乙乃章 初節 譚之七

 二人の動作はどちらもすごく上質な舞を見ているようであった。


 ジリ・・・・・・。

 仁帆里は最初の襲撃者である最後の敵に向きを変え、腰を落として左足を後ろに大きく突き出した。

 肩に担いだ長刀は刃を上に向け切っ先はちょうど伸ばした左足の甲の下にあった。

 須多爾は攻撃前の構えに戻っていた。

 鵜師も・・・・・・、いや鵜師は構えてはいなかった。鵜師の剣は左の腰にあった。

 柄に手はかけてはいたが、剣は鵜師の腰で鞘に収まっていた。

 4人は動かなかった。そのまま半時が過ぎようとしていた。

 カチ。

 ほんの小さな音が、どこかでした。

 修練場の壁に掛かっている大時計が、次の修練の開始を告げる鐘を打つために打槌ハンマーを引いた音だった。

 その時、動いた。

 いや、動いたように見えた。

 次の瞬間、鵜師の剣は敵の右肩を貫いた。

 いや、貫いたように見えた。

 次の瞬間、最後の影は消え、かねだけ残った。


 二人には、最後の瞬間からどれ程の時が過ぎたか分からなかった。

 それはほんの刹那にも、あるいは一昼夜にも思えたが、実際には、ほんの三時さんこくのことだった。どこか遠くを凝視していた須多爾と仁帆里の目に光が戻ってきた。

「はうっ」

 それまで忘れていたかのように二人は呼吸を始め、その場に砂袋のように倒れ込んだ。

 鵜師は、床に倒れた二人の教え子を複雑な表情で漠然と眺めているように見えた。

 やがてだんだんとその顔が険しくなっていったかと思うと、鵜師は思い出したように二人を修練場の医務室へ担いでいった。まるで、二人の体重などまったく感じていないような身のこなしだった。診療用の寝台の上に一人ずつ横たえると、今まで一度も見せたことのない柔和な表情で優しく二人の髪を撫でた。

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