乙乃章 弐節 譚之一

「状況を告知せよ」

 左右に伸びた髭を紙縒こよりながら、男が言う。

「はっ。全島に戒厳令を布告し、市民の行動を制限しております。まずは王彊、皇都こうと長華おさかの都市部はもちろん、郡部駐在武官にも治安維持法による取締りを命じ、ほぼ全域を制圧。幹線鉄道沿線地域には辺境守備隊を派遣して鉄道軸てつどうじくの保全警備を強化しております。都市部では機械化部隊が軽戦車を各十五輌出動させて巡回を強化。現在、各方面には目立った動きはなく、小康状態を保っております、閣下」

莫迦者ばかものめ! そんなことを聞いているのではないわ」

「は?」

「ふざけた声明文を送りつけた不逞ふていやからの正体は分かったのか! と聞いとるんだ」

「はっ、申し訳ございません。八方に手を尽くしてはおりますが判明しておりません」

わし愚弄ぐろうしおって、必ずや草の根分けても探し出して目に物を見せてやらんと腹の虫が修まらん! 貴様らも行動が遅すぎるわっ」

 その露わな感情に唯ならぬ気配をひしひしと感じ、報告をしている軍服姿の男は居心地の悪さを感じずにはいられなかった。

「それで、あのガキはどうした」

「はいっ、劇場地下の空き倉庫に押し込んでおります」

「莫迦者が! 捕らえるだけで良かったものを必要以上に痛めつけおって。余計に手間がかかったではないか」

「申し訳ございません。国王への忠誠心を誤った方向で誇示しようといたしまして」

「なにィ?」

「はい、王に手をかけたものを痛めつければ、それだけ忠誠を示せると勘違いをいたしまして、と申しますよりは、ここで捕縛に加わらなければ忠誠心を疑われると、珍妙な考えにとらわれておりまして」

「愚かな!」

「は、王立劇場の内部警護はほとんど若年兵に担当をさせておりましたゆえ、このような事態を招いてしまったようです。申し訳ございません」

「む。もうよいわ。で、大丈夫なのだろうな」

「はい、間違ってもそのようなことは。そうした意味では、かなり厳選しておりますので」

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