乙乃章 弐節 譚之二

「ハッハッハ! 厳選か、確かにそうだな。粒ぞろいのようだな」

「恐れ入ります」

「どうやらちからだけは有り余っておるようだし、上手く使いこなして、ひと仕事もふた仕事もさせんといかんからな」

「御意」

「で、ガキはどんな具合なのだ」

「はい、丸一日が経過いたしました現在もボロきれ同然です」

「そうか。思わぬ手駒になるやもしれぬからな。生かさず殺さずな」

「は、承知しております」

「まあ、ねずみ一匹死んでも大勢に影響はないがな。くっくっくっく」

「大事の前の小事ですな」

「何をしたり顔で言っておるのだ。だから貴様は莫迦者なのだ。こんなもの、小事ですらないわ!」

「はっ。失礼をいたしました」

 怒鳴られた軍服姿の男は、少しうつむこぶしを強く握りしめた。

「もうよいわ、下がれ」

「はっ!」

 軍服姿の男は居住まいを正すと、カツンと軍靴ぐんかかかとを合わせて敬礼をした。

「失礼いたします」

 回れ右をして出て行った扉に対して、髭の男が追い打ちをかけるように怒鳴った。

「告知は、怠るな!」


 軍服姿の男は部屋を出るなり苦虫をまとめて噛みつぶしたような面持になった。

専将せんしょう!」

 厚い扉から出てきた男に対し、もう一人の軍服姿の男が待っていたように声をかけた。

「ふう、やはり豚は豚だな。力を持ったとて、所詮しょせん馬にはなれん。たかだかいのししに成ってきおって余計に始末が悪いわ」

 声をかけられた男は吐き捨てるように言った。

「専務将校?」

「おお悪い、告知を。いや違う、報告を。くそぅ奴らの物言いが付いてきてしまったぞ」

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