乙乃章 参節 譚之十二

 

「まず、お前たちには詫びなければならない。そして、理解してもらいたい」

「教えてください。鵜師、俺たちはどうなっちゃったんですか。俺たちを襲ってきた影のような奴らは、いったい何者でなぜ俺たちに向って来たのでしょうか」

「うむ、話そう。しかしその前にお前たちを苦しめている思いをひとまず解き放とう」

「え、どういうことですか」

「うむ、今の時点では、お前たちは人を殺めたわけではない」

「え!」「ええっ」

 須多爾と仁帆里は、ほぼ同時に叫んだ。

「それは、ど、どういう」

「だって確かに、ここに、ここに手応えがあるのに」

 仁帆里は、自分の両手を虚ろに見詰めながら呟いた。

「うむ、お前たちの持っていたのは演舞用の作りものだからな。鍛えているわけではないし、刃も付いていないからな」

「そ、んな・・・・・・」「あ・・・・・・確かにそう、よ」

「うむ、少しは気持ちが軽くなったろうか」

「では、彼らは」

「うむ、応急処置を施した後、拘束してある」

「よか…った。よかった。で、でも、あのグイって深く刺したときの手応えはなんだったのでしょうか」

「うーむ、鍛えていないからな、渾身の力を掛ければ、簡単に曲がるのだ。改めて言っておくが、演舞用の剣だぞ。それこそ、それで致命的な怪我を負わせるわけには、いかんだろう」

 鵜師は、二人の心の傷の深さを推し量って、努めて軽い調子で告げた。

「鵜師、あんまり、です。ひどいです。あたしのこのか弱い心臓が潰れそうになりました」

「仁帆里の心臓がか弱いかどうかは別にして、俺も肝が張り裂けそうでした」

「えー! なんですってえ」

「よかった。笑ったな仁帆里、よかったぁ」

「え? なに? ん、もー、馬鹿」

 仁帆里が、真っ赤になった。

 

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